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マラソン大会と彼のクラスメイト


 コーヒーと不眠の属するクラスは一風変わった人間とお祭り好きの人間が集まっている。そんな彼等の今一番の関心は、一週間後に迫ったマラソン大会だ。運動部は勿論、文化部や帰宅部までもがノリノリでアップを始めている。体質のせいでマラソン大会に参加出来ない者も、クラスメイトが学年何位に食い込むかを予想して盛り上がっていた。

 だが、事件はある日の昼休みに起こった。

 クラスメイト達の順位予想を書いた紙が黒板に貼り付けられる。彼等の予想では、女子は不眠が七十五人中十位、男子はコーヒーが七十人中、ぶっちぎりの一位だった。不眠については、その日のコンディションで大きく順位が変わるため、結論に少し揉めたが、コーヒーの予想は満場一致だった。それほどクラスメイト達はコーヒーの脳筋っぷりを理解している。

「マラソン大会とか出ねえよ……」

 順位予想をちらりと見たコーヒーがぼそりと呟いた言葉に教室の空気が凍りつく。

「こ、コーヒー、そんな事言うなよな~」

 学級委員長の池峰がコーヒーの背をバシバシと叩きながら場を取り成す。クラスメイト達は池峰がさり気なく出したハンドサインを見逃さなかった。


 一日を終えるチャイムが学校中に鳴り響く。コーヒーと不眠のクラスメイト達は二人が連れ立って教室を出て行くのを固唾をのんで見守る。二人の姿が完全に見えなくなったところで、彼等は扉とカーテンを締め切り、各々が最も集中出来るポーズを取る。「これより、第六十三回『コーヒーを学校に馴染ませようの会』作戦会議を始める! 司会は学級委員長の俺、池峰。書記は副委員長の島朝さんが務める」

 池峰が教壇に立って、そう挨拶をすると、島朝は今回の議題を黒板に書き始める。『コーヒーを学校に馴染ませようの会』……それは言葉の通り、容姿のせいで周囲に誤解を受けている、又それについて諦めて尚更誤解されるような言動をするコーヒーを守り、そして誤解を少しでも無くそうとする会だ。メンバーは不眠とコーヒーを除いたコーヒーのクラスメイト全員。彼等も最初はコーヒーの事を怖がっていたが、紆余曲折あり、現在はコーヒーは優しい人間だという事を知っている。だから彼等はコーヒーの為に尽力するのだ。

「次の会議までまだ間があったにも関わらず、お前等を召集したのは外でもねえ。マラソン大会についてだ。コーヒーは何故かマラソン大会に出る事を嫌がっている。普段の体育の様子を見ている限り、マラソンが超絶嫌いって訳でもなさそうだ。なんでだと思う?」

 池峰の問いに剣玉名人の倉旗が手を挙げる。

「あれじゃないのー? 九月の体育祭予行の時みたいなー、嫌がらせ?みたいな奴が嫌なんじゃないのー?」

 倉旗の発言に全員が苦々しい顔をする。あの時、体育祭予行は酷かった。他クラスからの陰湿な言葉の暴力。そしてその頃はまだ彼等もコーヒーを誤解していた。結果として、コーヒーは体育祭本番に現れなかった。なぜあの時コーヒーを守らなかったのか、クラスメイト達全員が抱えている後悔だ。

「やっぱそれだよなあ……。マラソン大会ならスタートしちまえば、後はコーヒーは一位とるだけだし、アイツ等見返せるんじゃね?」

「でもさあ、それくらいであのバカ共が認識変えると思う?」

「…………思わない」

「じゃあどうすればいいんだよ!?」

「うるせーよ」

 ああでもない、こうでもないと会議は終わりを見せない。だがそれでも彼等は諦めない。

「げっ!? もうこんな時間じゃねーか! おいお前等、急いで帰るぞ!」

 いつの間にか時計の針は下校時刻ギリギリを指していた。下校時刻を過ぎることは、この高校では許されない。トイレ掃除くらいのペナルティーは余裕でかましてくる。クラスメイト達は鞄を引っ掴むと全力疾走で教室から出て行った。



「やべえ、急がねえと」

 誰もいなくなった教室にコーヒーが入ってくる。彼は自分の机を探って、音楽プレイヤーを取り出す。どうやら忘れ物をしかけていたようだ。

「帰るか。……ん?」

 ふと黒板を見たコーヒーの目に飛び込んできたのは、彼へのクラスメイト達の気遣い。時間が足りなさすぎて、黒板を掃除する事もできなかったらしい。

「あいつら……」

 コーヒーは手に持っていた音楽プレイヤーをポケットに仕舞うと、黒板の前へ行きチョークを手に取り、なにかを手早く書き付ける。

 下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響く校舎を走り抜けながら、コーヒーは緩む口元を無理矢理引き締める。

「……アップしねえとな…………」




『一位とってやるよ』

 デカデカと黒板に書かれたその文字にクラスメイトが歓喜し、その言葉通りコーヒーが堂々の一位をとるのはまた別の話。

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