ミルクちゃんと不眠ちゃん
昼休みを告げるチャイムが鳴る。
雄叫びを上げながら購買へ向かう者、友達の元に向かう者、目的は様々だが皆一様に楽しそうな表情を浮かべている。
ミルクもその1人だ。鞄から弁当を取り出し、白くて長い髪をふわふわと揺らしながら隣のクラスの友人の元に向かう。
隣のクラスの端の席。そこにいつも彼女、不眠はいる。今日も相変わらずの上下青ジャージに無造作に跳ねた黒髪をアイマスクをヘアバンドのように着けて押さえている。不眠はイヤホンで音楽を聴いていて、ミルクには気がついていないようだ。ミルクは不眠の肩を軽く叩く。
「あ、ミルク」
「不眠ちゃん、ごはんを食べましょう」
「うん」
不眠は音楽プレイヤーを鞄に仕舞い、代わりにコンビニの袋を取り出す。
「なにを聴いていたのですか?」
「ヒーリングミュージック。新盤」
「効くのですか?」
「全く」
不眠の目の下には濃い隈が出来上がっている。
(これで四徹目なのですよ……)
ミルクの眉間にぐっとしわが寄る。ミルクは目の前の寝れない友人の事が心配で堪らない。三徹は当たり前、寝たいのに寝れない、寝れても熟睡は滅多にしない。以前そんな事を零していた。そんな生活を続けていたら、いつか体を壊すだろう。それがミルクはこわい。
「ねえミルク」
じっとミルクの顔を見ていた不眠が不意に口を開く。
「なんですか?」
「ホットミルク、放課後作って」
「……!! はい!お安い御用なのですよ!!」
さっきまで難しい顔をしていたミルクの表情がぱあっ、と明るくなる。不眠はミルクの心配そうな表情が嫌いだ。だからミルクの表情が明るくなったのを見ると、不眠も僅かに笑みをもらした。
「1口飲んだら、即熟睡するようなホットミルク淹れてあげるのですよ」
「それはいろんな意味で怖いから止めてほしいかな……」