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(3)

 後ろからの足音にさえ肩をビクつかせる。

 下を向いたままで、机の無味な模様を眺めて心を落ち着かせるべく深く息をつく。そう言えば、さっき先生は誰を指名してたっけ?ふとそんな疑問が頭によぎるのと、腕が引っ張られるのはほぼ同時だった。


「八重、早く黒板行けよ。昨日ちゃんと予習してただろ?」



 セクシーな掠れた、よく知っている声。



「…な、なんで前に来てるんですかっ?」


 掴まれた腕とその綺麗な顔を見上げれば、そこにいるのは幼馴染の奴が仏頂面で立っていた。


「今日の日直、俺だから。」


 へー、とか思っている間に連行される身体とは裏腹に?と疑問符が頭の中を占拠する。


「日直って、朝一番に黒板消しをパタパタして、窓空けして、花壇に水撒きする人ですよね?」


「ああ。ほら、チョーク…こっちやるよ。」


 黒板へ並び立ち(強制連行されて)、選択肢が二つしかない補給不足のチョークを渡される。長くて新品と古くてチビたチョーク。勿論、チビたやつが手元に来た。受け取ってお礼を言いながら質問も追加してみる。


「今日、遅刻しませんでしたか?」


 にやり。

 横顔だけで悪い顔が出来るなんて、恐ろし過ぎてプルプル震える。命の危険を感じるのは何故でしょうか。


 へらり。

 笑って誤魔化す。頭の中には悲鳴をあげる自分の姿を鮮明にイメージしてしまう。


「誰かさんが地球にダイブした写真に日付と時刻がばっちり記載してあるけど、公開しようか?」


 すらすらと黒板を埋めていく綺麗な数字に見とれていると、聴覚から凄まじい襲撃を受けた。


 五秒ほど固まったのは言うまでもない。


「そこー、先生の前でイチャイチャするな、羨ましい!てかね、先生は早く授業終わらせて彼女に謝りに行きたいの!数学なんてやりたくないんだからなー!もう帰りたい!お家帰りたい!」


 硬直した身体は、担任の帰りたいコールで一気に脱力する。帰りたいのは寧ろ自分だ!と泣きたくなってきた。その代わりにクラスメイト達が口々に騒ぎ出す。俺も帰りてーとか、先生最高とか、まじうけるとか、授業中に私語解禁である。


はぁと浅く呼吸を吐き出す。何だか緊張していたのが馬鹿みたいだ。


「…あ、」


 黒板へと向き直りチョークを、さぁ書くぞと掲げた時だ。間抜な声とともに再び心臓が悲鳴をあげた。







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