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狂信者はシにました  作者: 黒助
第一章 ― 子供騙し
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第十三話 ― 目的達成

「……ん、ハ…く…、ハルくん!」

「えっ?」

「とりあえず、傷を洗わないと」


 最近の苦労を思い出して、呆けていたハルの耳にアリスの心配そうな声が届く。青ざめたその様子にハルは自分のことよりもむしろ少女のほうが心配になった。ハルは気になって自身の手を見る。血糊で赤く染まった手のひらは確かに見ようによってはかなりの重傷である。


 それでも量は調節してあるのでダラダラと際限なく垂れるような状態ではないはずなのだが……


「うん、でも本当に大丈夫だから心配しないで……それよりも――」


 そういってハルは生徒たちを見回した。先ほどまでは騒がしかった子供たちも当の本人が話し出したおかげでシンと静まりかえる。


「僕が怪我をしたことは秘密にして欲しいんだ」

「そんな……こんなことになったんだから、ちゃんとアルフレッド先生にも報告を――」


 アリスは言いながらグレッグを睨みつける。


「親に心配を掛けたくないんだよ。きっとこんなことがあったと知ったらアルフレッド先生も報告せするだろうから」


 その言葉に今度はグレッグが青くなった。いくら子供とはいえ、相手に怪我をさせる、ましてこれだけ派手な見た目の怪我となると自分もただでは済まないということを理解したのだろう。取り巻きたちも概ね彼と同じような反応をしている。


「これから気を付けてくれるなら僕はそれでいいからさ」


 ”だからお願いします”と一度皆に向かい頭を下げるとハルはアリスに連れ添われて学校を出る。その際に見えたグレッグの顔にハルは人知れず口元をゆがませた。


――――――


 アリスはハルの手をとり木陰に座らせると、”少し待っていて”と言い残しどこかへと走っていった。その間にハルは手元に残ったウサギの腸をてきとうな茂みに投げ捨て、最後に服についたしみを確認しておく。


 元から今日実行する予定だったので汚れの目立たない服を用意してきてはいたのだが、どうやら心配は杞憂に終わったようで多少の染みは確認できたものの目立つほどではなかった。そうこうするうちに、桶に水を汲んだアリスがやってくる。


「……大丈夫?」

「そんなに心配しなくても少し額を切っただけだよ」


 ”みせて”というアリスに答え、前髪を上げるとハルの額には小さな切り傷があった。だが、この切り傷も先ほどついたものではない。学校に来る前に自分で付けた傷でそれこそほとんど出血もないようなレベルのものだ。


 後々面倒なことになることを嫌ったハルは、あらかじめ自宅で怪我を作りフィーリアにこの傷を見せておいた。これならば急に傷が出来たと下手に勘ぐられることもないだろう、と考えてのことである。


 その程度の傷でも、見た目に血が出ていれば人というものは簡単に誤解するものだ。


 ハルにとって一番の懸念はアルフレッドであったが、当初の予定通り現場に居合わせることは回避できたようである。最悪、あの場にアルフレッドが入ってきた場合は”学校に来られなくなるかもしれない”という理由で報告しないように説得する気であった。


 これで当面、グレッグも大人しくなるだろう


 ハルはそう考える。それと同時にいよいよ行動が起こしやすくなることは間違いない。ある意味ではグレッグは弱みを握られたも同然である。となれば今までグレッグによって抑え付けられていた他の生徒たちからの風当たりも改善されるはずだ。


 グレッグは遠からず孤立するだろう、とハルは思う。既に子供たちの大半は彼に対して明確な敵意を表し始めている。


 次に起こるのはおそらく内部分裂だ


 グレッグを支持していた者たちが他のグループに流れるか、あるいは新しいグループを作るのかに関してハルの知るところではないが、数の優位性を失ってしまった以上、遅かれ早かれそうなる。


 ”革命”


 ハルの頭にそんな言葉が浮かんだ。それは酷く小さくて歪ではあるが、確かに一つの区切りであった。


 ハルはアリスに渡された布で額の傷口を押さえる。ひんやりと湿ったそれが頭を冷やす心地よさにハルは不必要に肩に入った力を抜いた。


 ここからが本番だ

 これまではグレッグの自己満足に付き合った

 次は彼に私の我侭に付き合ってもらわないとな


 傍らのアリスに笑いかけながらハルは一人画策する。

ここでまでを一章として区切ります。

次話は二章の構想をしっかりとまとめ次第順次投稿いたします。

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