息もできない
「只今より、この車輌は強暖房車となります」
車掌のアナウンスに一同がざわめく。
「何だ?強暖房車って?」
「弱冷房車の逆バージョンみたいなもんじゃねえの?」
「どっちにしろ寒かったからいいよ」
今の時間は夜の十一時。この車輌には私を含め、三人しか乗っていない。
時間のせいもあるが、ここは都会と違って相当な田舎なのだ。
そのため、車輌も三輌編成となっている。その中から、私が乗っている二輌目が、強暖房車の対象に選ばれた。
さすがに強暖房車と言うだけあってすぐに暖かくなった。
しかし、それだけで終わらなかった。
温度の上昇が止まらないのだ。
「ちょっと…暑くねえか?」
「確かに、隣の車輌行くか」
そう言って二人組の男が移動を開始した。
私もさすがに暑さがきつくなり、男二人組とは逆のドアに手を掛けた。
ガキン、ガキン。
「あれ?おかしいな、開かない」
見ると、反対側のドアでもさっきの二人組が私と同じ事をしている。
「何だよこれ、開かねえよ!」
「いいよ、窓開けよう」
そう言って二人組の片方が窓を開けた。
「ふう、外の寒さが丁度良いくらいだ」
男は気持ちよさそうに窓から首を突き出した。
私も窓を開けようと思い、手を掛けたその時。
ガタンという音と共に、男が首を突き出している窓が物凄い勢いで閉まった。
「うわああああああ!!沢村!沢村ああああああっ!!」
その時目の前で起こった事を理解するのに私の頭は必死に働いていた。
窓は真っ赤に染まり、男の頭が無い。首の断面からは真っ赤な血が噴水のように吹き出している。
一瞬にして車内は血の臭いで一杯になった。
私は、うっと吐きそうになったが何とか堪えた。
あの男の連れは床一面に広がった血の海を見て放心している。
「この車輌は何なんだ!?」
こうしている内にも車内の温度はどんどん上がって来ている。
このままではまずいと思い、ドアをドンドン叩き隣の車輌の人に助けを求めた。
しかし、何度叩いても一向に気付かない。どんなに強く叩いても何も変わらない。
「何で!?どうして!?」
もう何もわからない。そんな気がしてきた時、ふと見るとさっきの男があまりの暑さに気を失ったのだろう、倒れたまま動かなくなってしまっている。
「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」
私は声を掛けたが、やはりピクリとも動かない。
血の海の上に倒れている姿は、もう既に死んでしまっているようにも見える。
今の暑さは真夏の陽射しより暑いだろう。それでもまだ温度は上がり続けている。
もう私の意識も朦朧として来た。まともに立っていられない。
そこで私は気を失った。
「終点ー、終点ー、お忘れ物ございませんようお願い致します。」
「うーん、全滅か……」
「これじゃ実用化は無理ですね」
「そうだな、今回のテストは失敗だ。とりあえず、死体だけ片付けておいてくれるか?あと、次回の実験対象も選んでおいてくれ」
「わかりました。一週間後にでも出来るようセッティングしておきます」
「うむ、ではこれで失礼するよ」
「はい、お疲れ様です」
ホラーかな?って感じでホラーにしましたf^^;期待を裏切ったらごめんなさいm(__)m