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聖なる騎士



「あれが『黄昏に抗う者』と呼ばれし『七主』の一人なのだろうか……?」


 黒いロングコートを羽織った男は、古びたビルの屋上でそう呟いた。

 ヴィトーリオ・エルレッティ。それが彼の名前だった。


 ヴィトーリオは眉を顰め、眼下の一軒家で繰り広げられた喧騒を見つめながら、己がいままで教えられたことを、そして『十字軍(クルセイダー)』の『異端処理官』として経験してきたすべてを、いとも簡単に否定されたような気がしていた。


 どこか釈然としない思いのまま、ヴィトーリオは術を解いた。


『魔術師の(ウィザード・アイ)』の呪文は比較的初歩の魔術だ。遠くの対象を監視する目的に使われるその魔術は、通常は『使い魔』を通して使用される。


 だがヴィトーリオには『使い魔』などいない。だからその魔術は一般の『魔術師の(ウィザード・アイ)』とは微妙に違うものでもあった。精度は及ばないが『使い魔』をその場に置く必要はない。


 ヴィトーリオは『聖騎士』の位階にある『異端処理官』として、この日本に派遣されてきた。つまりは『闇の種族(ダーク・レイス)』と呼ばれている神の敵対者を滅殺する為に……。


 だがヴィトーリオに下された使命は、『七主』であるリーゼロッテ・クリスティーナ・エッシェンバッハに対するものではない。この街で多数の犠牲者を生み出している、『食人鬼(オーガ)』と分類される『闇の種族(ダーク・レイス)』であるジャン・ルイ・オートブレーブがターゲットなのだ。



 ジャンはパリで生まれた『血族』だった。しかも『七主』の第一位たる『真王』の『血族』だと確認されていた。


 だからであろう、まだ『闇の種族(ダーク・レイス)』としては二百年ほどの『血族』であるが、その能力は千年の生を経た『旧きもの(エルダー)』に匹敵するらしい。しかも『食人鬼』として犠牲者の血と肉と魂、つまりすべての物を奪い取るだけに、その力の上昇率も高い。しかも彼は──。


 いや、彼の過去などはどうでも良い。ヴィトーリオの獲物としては最上級の『異端者』なの間違いないのだ。この任務に対して、ヴィトーリオはその能力のすべてを使わなければならないだろう。それほどの難敵なのだ。


 しかし……。


 ヴィトーリオは偶然にも、それよりもさらに手強く、恐ろしい『異端者』を発見してしまった。それがあのリーゼロッテと言う名の美少女であり、『黄昏に抗う者』の通り名を持つ、始原の脅威である『七主』の一人であった。


 『教会』からは『七主』に対する敵対行動は諌められている。それはあまりにも危険で、魔術の奥儀を極めた者であろうと、『聖騎士』と呼ばれている神の戦士であろうと、その手に余る存在だからである。


 究極の『魔人』である七人の『闇の主』。その力はまさに『魔神』と比肩すべき存在であり、究極の力の象徴でもあった。


 神の恩恵を受けしヴィトーリオであろうとも、『血族』と同等の戦闘力を誇る『聖騎士』である彼であろうとも、その戦闘力には天と地の差があるのだ。触れるべき存在ではない。それにヴィトーリオが『七主』と敵対することは、決して教会が許してはくれないだろう。危険だからと言う理由だけではないのだ。


 しかし──。


 ヴィトーリオは『異端処理官』として『黄昏に抗う者』と言う存在を見逃すことができなかった。そのように教育されていた。

 神にあだなす、遍く闇に蔓延る者達を、秘密裏に『処理』するのが自身の役目であり、そして天から与えられた至高の義務なのだ。


「さて──」


 ヴィトーリオは眉を顰め、今後の行動について計画を見直さねばならないと考えた。


「──どうしたものかな?」


 腰の長剣──ヴィアラウディと名づけられた法儀聖剣──の柄を握り、自問の呟きを漏らしたヴィトーリオは、答えの出ない思考を潔く停止した。


 まずは『オーガ』の始末が先決だ。教会からの任務を終了させなければ、『七主』に関わることもできない。それに、『オーガ』一人だけが『処理』の対象ではないのだ。


 『オーガ』──ジャン・ルイはこの地に辿り着いてから多くの『従者』を得ている。それがこの街で起きている凄惨な殺人事件の犯人であり、これからも犠牲者を生み出す禍でもあると、ヴィトーリオは知っている。


 ジャン・ルイは人の血肉を余すところなく喰らい尽す。故に殺人事件の証を残したりしない。つまり事件として死体が残っているものは、すべてマナーのなっていない『従者』の仕業であると判断できる。


 『オーガ』が生み出した『オーガ(人喰い鬼)』を屠ることも、いずれヴィトーリオの使命に他ならないのだ。


 そうと決まれば──。


 ヴィトーリオはビルの屋上から辺りを睥睨した。


 『オーガ』の気配は完全に隠蔽され、いまだ感じられないが、その『従者』である者は、いまだ人の姿で擬装して、今宵も獲物を求めてさすらっているだろう。

 ヴィトーリオはコートの裾を翻し、たったいま感じ取った血生臭いその気配を辿る為、ビルの屋上から飛び降りた。


 まずはあの『オーガ』の僕を処理しなければならない。

 大元を断たなければヴィトーリオの任務は終了しないが、これから起こるであろう惨劇を無視することもできないのだ。


 すくなくともヴィトーリオは、『聖騎士』の誓いを神に捧げた、誇り高い慈悲の心を持った聖なる戦士なのだから。


 無作為に飛ばした思念の波が、すぐに異形の気を感知した。

 それは明らかに人とは違う、確かに『闇の種族』の波動であった。

 そして闇を屠る『聖騎士』は、闇に紛れて獲物へと向かった。たとえ彼の姿を目撃した者がいても、はっきりとそのすべてを認識できはしないであろう神速のスピードで。


 腰に下げられた相棒は、ようやく吸えるであろう魔物の血に、狂喜の波動を放っていた。


(そう急かすな。いまにゆっくりと味あわせてやるよ)


 相棒である長剣ヴィアラウディに、心の中でそう言い聞かせると、ヴィトーリオは目指す獲物に向かって跳びかかった。


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