第61話 静かな世界
疫病が終息してから、三週間が過ぎた。
港町の空は、以前と同じ青さを取り戻していた。
市場は再び賑わい、荷馬車が街道を行き交う。
人々はまだ慎重だったが、それでも笑顔が戻っている。
治療所の前で、ミナトが伸びをした。
「……静かですね」
久しぶりの言葉だった。
ここしばらく、静かな日などなかった。
発熱者の列。
重症患者。
怒号。
恐怖。
それが、今はない。
代わりにあるのは――
日常だ。
「支援依頼、三件」
若い支援者が紙を持ってくる。
「全部軽傷です」
ミナトが笑う。
「平和ってやつですね」
俺は小さく頷いた。
連盟の連絡板にも、大きな報告はない。
各地の支援は、通常業務に戻っている。
疫病は終わった。
完全ではない。
だが、危機は過ぎた。
昼。
ルドナの連盟拠点で、簡単な会議が開かれていた。
「新しい支援者の登録が増えています」
代表の一人が言う。
「各地の街から、連盟に参加したいと」
ミナトが目を丸くする。
「そんなに?」
「疫病で評価が上がった」
アルヴェインが静かに言う。
国家としても、連盟を無視できなくなっている。
「国家内でも議論が始まっています」
「制度化?」
「いずれ」
俺は肩をすくめた。
「急ぐ必要はない」
構造はまだ成長途中だ。
制度にすれば固まる。
それは早すぎる。
セラフィナが微笑む。
「神殿でも同じです」
「奇跡の使い方が変わりました」
奇跡は万能ではない。
だが。
必要な場所では、最も強い。
それが世界に理解された。
夕方。
街道の見張り塔から鐘が鳴った。
低い音。
警報ではない。
到着の合図。
ミナトが外を見る。
「……使節団?」
街道から、長い隊列が近づいてくる。
見慣れない旗。
銀と深緑の紋章。
兵士ではない。
学者のような衣装。
医療道具を運ぶ馬車。
ノアが目を細めた。
「……あの紋章」
アルヴェインが小さく息を吐く。
「東方医術連合」
その名に、部屋の空気が変わった。
遠い国の医療組織。
高度な医術で知られている。
だが。
もう一つ、知られていることがある。
**知識を外に出さない。**
隊列の先頭で、一人の男が馬から降りた。
長い外套。
冷静な目。
彼は周囲を見渡し、まっすぐこちらへ歩いてくる。
そして、軽く礼をした。
「初めまして」
穏やかな声。
「リオネルです」
その目が、俺を捉える。
「あなたがレオンですね」
一拍。
そして彼は、静かに笑った。
「興味深い構造を作った」
褒め言葉。
だが。
次の言葉は、まったく違った。
「ですが」
彼は続ける。
「とても危険です」
港町の空気が、再び張り詰めた。
世界は、まだ静かではない。
新しい議論が――
今、始まろうとしていた。
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