第4話 危険度Bのはずだった
ギルドからの指名依頼は、いつもより厚い紙で封をされていた。
「危険度、B……?」
リーナが眉をひそめる。
今まで受けてきたのは、せいぜいC止まり。装備も経験も、まだその域を出ていない。
「報酬は破格だな」
「その分、理由があるってことだろ」
カイルが紙面を覗き込み、肩をすくめた。
依頼内容は単純だった。
近郊の廃坑に出没した魔物の排除。だが、添えられた備考欄に、赤字で一文があった。
――**過去三パーティが撤退。重傷者あり。**
「……やめとく?」
リーナが俺を見る。
判断を委ねる視線だった。
「無理だと思ったら、すぐ引きましょう」
俺はそう答えた。
できることは、いつもと同じだ。
廃坑の内部は、ひどく静かだった。
音が、吸われる。嫌な静けさだ。
「来る」
カイルの声と同時に、影が動いた。
速い。
思ったよりも、ずっと。
魔物は連携していた。前衛を崩し、後衛を狙う。知能があるタイプだ。
リーナの盾が、わずかに遅れる。
その瞬間――
――戻す。
筋肉の出力、呼吸の間。
ほんの一拍だけ、整える。
「……っ!」
リーナの盾が、間に合った。
紙一重。だが、致命傷にはならない。
「今の、危なかったぞ!」
「分かってる!」
戦闘は続く。
だが、誰も崩れない。
回復魔法を撃つ場面すら、少なかった。
HPが減りきる前に、動きが修正されている。
「おい……」
カイルが息を整えながら、呟く。
「これ、本当にBか?」
最後の魔物が倒れたとき、全員がその場に立っていた。
傷はある。疲労もある。だが――
誰も、倒れていない。
「……生きてる」
リーナが、ぽつりと言った。
ギルドに戻ると、空気が変わった。
受付は即座に奥へ走り、しばらくして一人の男が出てくる。
「君が、レオンだね」
穏やかな笑み。だが、目は鋭い。
ローゼンと名乗ったその男は、俺たちを応接室へ案内した。
「率直に聞こう。
君は、何をしている?」
言葉に、詰まった。
「……整えているだけです」
「それを、どうやって?」
「……ズレを、見て」
自分でも、何を言っているのか分からない。
ローゼンは、少し考えてから頷いた。
「再現性は?」
「分かりません。同じ状況は、二度とないので」
「なるほど」
彼は、笑った。
「君は危険だ」
場の空気が、張りつめる。
「誤解しないでほしい。
“脅威”という意味じゃない。
**価値が高すぎて、扱いに困る**」
その言葉に、胸がざわついた。
「君のような支援は、個人に任せていいものじゃない」
その夜。
別の街で、元パーティは深手を負っていた。
「撤退だ! もう無理だ!」
エルナの回復は、追いついていない。
回復量は十分なはずなのに、戦線が立て直らない。
グラッドは、初めて思った。
――あいつは、何をしていた?
答えは、まだ出ない。
応接室を出たあと、リーナが小さく息を吐いた。
「ねえ、レオン」
「はい」
「あんた……もう、戻れないところまで来てない?」
俺は少し考えてから、首を振った。
「分かりません。でも……」
廃坑での、あの感覚。
確かに、俺は“整えすぎた”。
「多分、前からです」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。




