第31話 唯一無二の否定
結論は、派手な形では出なかった。
誰かに宣言したわけでも、
大きな決断を叫んだわけでもない。
ただ、俺は一つの依頼を断った。
「……今回は、俺は行きません」
王国から届いた要請書。
規模は大きいが、緊急ではない。
「代わりが、いない案件ではありません」
使者は困惑した。
「ですが、あなたが行けば
被害は確実に抑えられます」
事実だ。
「ええ」
頷く。
「でも、それは
“俺が行く前提”で考えた場合です」
沈黙。
「基準も、人員も、整っています」
俺は、要請書を机に置いた。
「まずは、
それを使ってください」
使者は、しばらく黙ってから頭を下げた。
「……伝えます」
それだけだった。
その日の午後、治療所で小さな会議を開いた。
参加者は、神官と行政の中堅どころ。
「今日は、俺は決めません」
最初に、そう告げる。
ざわめきが起きる。
「意見を出してください」
沈黙。
だが、今回は少し違った。
「……この場合は」
一人が、恐る恐る口を開く。
「基準の二番目を、
優先していいのでは」
反論が出る。
「いや、患者の年齢を考えると……」
議論が、動き始めた。
俺は、口を挟まない。
正直、歯がゆい。
もっと早く、もっと良い案が見える。
それでも。
**黙る。**
決まった結論は、完璧じゃなかった。
小さな無駄も、迷いもあった。
だが。
「……これで、行きましょう」
最後に言ったのは、俺じゃない。
会議後、イオナが近づいてきた。
「……怖くなかったですか」
「怖かったです」
正直に答える。
「助言したくて、
口がムズムズしました」
彼女は、少し笑った。
「でも、私たちも」
一拍置いて。
「ちゃんと、考えてました」
その言葉が、胸に沁みた。
夜、宿でエリスと話した。
「降りるって、こういうこと?」
彼女は、皮肉っぽく言う。
「ええ」
頷く。
「俺がいないと
始まらない状況を、
作らない」
それは、逃げじゃない。
「……完全に手放すわけじゃないんだね」
「はい」
必要なら、入る。
でも、前提にはならない。
それが、俺の出した答えだ。
エリスは、静かに頷いた。
「それなら、世界は壊れない」
断言ではない。
**可能性の話**だ。
翌日。
街は、いつも通り動いていた。
俺が決めなくても。
俺がいなくても。
完璧じゃない。
でも――止まってはいない。
それでいい。
唯一無二であることを、
俺は否定した。
代わりに選んだのは、
**繰り返せる支援**。
世界が、自分で修正できる余地を、
残すための支え方だった。
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