第27話 正しい待機
翌日、街はいつも通り動いていた。
市場も開き、荷車も行き交う。
治療所では、神官たちが黙々と手を動かしている。
一見すれば、何も問題はない。
だが、俺の目には――
“待機”という空気が、はっきり見えた。
「本日の対応についてですが」
再び開かれた会議で、地方行政官が口を開く。
「特段の変化はありません。
昨日の基準を踏襲する、でよろしいでしょうか」
全員の視線が、一斉に俺へ向く。
肯定を待つ目。
確認を求める目。
拒否や反論は、最初から想定されていない。
「……その前に」
俺は、手を挙げた。
「一つ、聞いてもいいですか」
「もちろんです」
即答だった。
「もし、俺がこの街に来ていなかったら、
皆さんは、どう決めていましたか」
空気が、わずかに揺れる。
やがて、行政官が答えた。
「……決めていました」
その声に、嘘はなかった。
「時間をかけて。
議論して。
責任を分け合って」
神官も、頷く。
「奇跡の使用も、もっと慎重に、
時には後悔しながら、選んだでしょう」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「では、なぜ今は?」
問いかけると、沈黙が落ちた。
しばらくして、行政官が口を開く。
「……あなたが、いるからです」
はっきりとした答えだった。
「あなたが判断すれば、
間違いは起きない」
神官が、続ける。
「少なくとも、
“取り返しのつかない失敗”は」
正しい。
あまりにも正しい。
「我々は、責任を放棄しているわけではありません」
行政官は、必死に言葉を継いだ。
「ただ……
より安全な選択を、取っているだけです」
その瞬間、理解した。
これは怠慢ではない。
依存ですらない。
**最適化**だ。
「あなたが来るまで待つ」
それが、この街にとっての――
正しい待機。
会議後、イオナと廊下を歩く。
「……怖いですね」
彼女が、ぽつりと呟いた。
「何が?」
「私たちが、
ちゃんと考えているつもりなことです」
考えている。
だが、決めていない。
「判断を、預けている」
俺がそう言うと、彼女は頷いた。
「はい。
それが、一番“失敗しない”から」
その言葉が、胸に突き刺さる。
夕方、小さな騒ぎがあった。
軽症者の一人が、処置を巡って不満を口にしたのだ。
「どうして、あの人が先なんだ」
問いは、俺に向けられた。
俺が答えると、周囲は納得する。
理由ではない。
**誰が決めたか**が、全てだった。
夜、宿に戻る。
リーナが、静かに言った。
「これさ……
あんたがいなくなったら、どうなる?」
即答できなかった。
混乱するだろう。
でも、それ以上に。
「……また、決められるようになる」
そう言うと、カイルが首を振る。
「時間が、要る」
それが問題だった。
人は、一度“待つ”ことを覚えると、
自分で決めるのが、怖くなる。
机に向かい、俺は考える。
助けている。
救っている。
それでも。
俺は今、
この街から――
**決断する力を、少しずつ奪っている。**
それが、
誰も悪くないまま起きている事実だった。
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