第21話 止めに来た者たち
神殿の使者は、想像より少なかった。
武装した兵もいない。
儀仗も、威圧もない。
先頭に立っていたのは、昨日会ったユリウス大神官だった。
「お久しぶりです、レオン殿」
その声は、穏やかだった。
その穏やかさが、逆に場を張りつめさせる。
「現場の判断としては、見事でした」
彼は、治療所の様子を一瞥する。
「死者を出さなかった。
疫病の流れも、ほぼ断ち切っている」
事実だ。
だからこそ、胸が重くなる。
「ですが」
ユリウスは、視線を俺に戻した。
「あなたは、やってはいけないことをやった」
断罪ではない。
確認でもない。
**宣告**に近かった。
「街全体を“正常化”する支援」
彼は、はっきりと言う。
「それは、神の奇跡でも、王の権能でもありません」
イオナが、一歩前に出かけて、止まる。
言葉を飲み込んだのが分かった。
「人が行っていい領域を、越えています」
ユリウスの言葉には、怒りがなかった。
あるのは、恐れだ。
「……人を助けただけです」
俺は、そう答えた。
「ええ。分かっています」
即答だった。
「あなたは、善意でやっている。
だからこそ、危険なのです」
その言葉は、何度目だろう。
「人は、限界があるから祈る」
ユリウスは、街の方を見る。
「祈りがあるから、諦めることも、選ぶこともできる」
視線が、再び俺に向く。
「あなたは、それを奪える」
イオナの声が、震えながら響いた。
「大神官様……
でも、この街では――」
「分かっている」
ユリウスは、彼女を遮らなかった。
「だから私は、ここに来た」
彼は、深く息を吸う。
「排除しに来たわけではありません」
周囲が、ざわつく。
「あなたを、止めに来たのです」
その言葉に、リーナが一歩前に出る。
「止める、って……
この人がいなくなったら、また人が死ぬ」
「ええ。死ぬでしょう」
ユリウスは、はっきり言った。
その冷静さに、息を呑む。
「それでも、人は生き方を選ばねばならない」
沈黙が落ちる。
俺は、拳を握った。
「……じゃあ、見殺しにしろって?」
初めて、感情が滲んだ。
ユリウスは、首を振った。
「違います」
彼は、俺を真っ直ぐに見る。
「あなた一人に、背負わせるな、と言っている」
その言葉で、理解した。
彼らは、俺を敵と見ていない。
**依存の核**として見ている。
「このまま続ければ」
ユリウスは、静かに続ける。
「人は祈らなくなり、
選ばなくなり、
最後には――考えなくなる」
それは、救いではない。
「だから、お願いです」
大神官が、頭を下げた。
「あなたの力を、
“街全体”には使わないでほしい」
周囲が、凍りつく。
国家の使者が、その様子を遠巻きに見ている。
誰も、口を挟まない。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
「……全部は、無理です」
正直な答えだった。
「でも」
視線を、ユリウスとイオナに向ける。
「俺ができる範囲で、
**減らすこと**はできます」
完全に救わない。
完全に止めない。
中途半端な答え。
ユリウスは、しばらく俺を見つめてから、頷いた。
「それで、十分です」
彼は、はっきり言った。
「あなたが“神の代わり”にならない限り」
その言葉で、この対話は終わった。
去り際、ユリウスは振り返る。
「国家も、あなたを放っておかないでしょう」
予告だった。
「ですが、覚えておいてください」
彼は、静かに言った。
「あなたを止めようとする者がいるということは、
あなたが、まだ人の側にいる証です」
神殿の一行が去っていく。
治療所には、静けさが戻った。
イオナが、ぽつりと呟く。
「……救ってはいけないことも、あるんですね」
俺は、すぐに答えられなかった。
ただ一つ、はっきりしたことがある。
俺はもう、
助けるか、助けないか、では選べない。
**どう助けるか**を、
自分で決め続けるしかない場所に来ている。
それが、
神殿が止めに来た理由だった。
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