第2話 なぜか誰も死なない
辺境の街・リムル。
城壁は低く、冒険者ギルドも小さい。俺がいたSランク御用達の街とは、何もかもが違っていた。
「……人手不足、か」
掲示板に貼られた依頼は、どれも危険度のわりに報酬が安い。受け手がいないのだろう。
その前で、困った顔をしている一団がいた。
「次の依頼、どうする?」
「この人数で行けるか……?」
重そうな盾を背負った女性が、仲間に声をかけている。装備は使い込まれているが、質はよくない。
全体的に、ぎこちない。
「もし良ければ……俺も混ぜてもらえないかな」
声をかけた瞬間、全員がこちらを見た。
「え? 支援職?」
盾役の女性――リーナが、俺の杖を見る。
「はい。戦闘力は……あまりないですけど」
正直に言うと、彼女は少し困った顔をした。
無理もない。支援職は信用が必要だ。
「……死なない保証はできる?」
一瞬、答えに詰まった。
保証なんて、できるはずがない。
「できません。でも……できるだけ、整えます」
変な言い方だと思ったが、なぜか彼女は小さく笑った。
「じゃあ、行こう。どうせ今もギリギリだし」
その日の依頼は、近くの森に出没する魔物の討伐だった。数は多くないが、動きが速いタイプ。初心者が何人もやられているらしい。
戦闘が始まる。
俺は後方に立ち、全体を見る。
リーナの盾は、構えが少し遅い。
斥候の青年――カイルは、踏み込みが浅い。
魔法使いの詠唱は、ほんのわずかにズレている。
――だから、少しだけ戻す。
誰かを強くする必要はない。
ただ、本来ある位置に戻すだけ。
「……あれ?」
最初に声を漏らしたのは、カイルだった。
自分でも驚いたように、敵の攻撃を避けている。
「今の、避けられると思ってなかった」
リーナの盾が、間に合う。
魔法が、ちょうどいいタイミングで炸裂する。
戦闘は、あっけなく終わった。
「……え、全員無傷?」
リーナが、自分の腕を見下ろす。確かに、傷一つない。
「こんなに楽だったの、初めてかも」
俺は首を横に振った。
「たまたま、噛み合っただけですよ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
でも、全員が俺を見る目を、少しだけ変えていた。
ギルドに戻ると、受付の女性が目を丸くした。
「もう帰ってきたんですか? 怪我人は……?」
「いません」
「……え?」
討伐報告を受け取った彼女は、何度も書類を見直していた。
その夜、宿で簡単な食事をとりながら、リーナが言った。
「ねえ、レオン。あんた、何したの?」
「何も。後ろで見てただけです」
「それが一番怪しいんだけど」
冗談めかして言われたが、内心では少しだけ不安だった。
俺は、普通の支援しかしていないはずだ。
同じ頃。
街を離れた元パーティは、ダンジョンで撤退を余儀なくされていた。
「回復が、間に合わない!」
「なんでだ、いつもなら……!」
グラッドは歯を食いしばる。
――何かが、噛み合っていない。
だが、その原因が何かを、誰も分からなかった。




