表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランクパーティから追放された回復支援職、俺がいなくなった途端に全員死にかけてるんだが? ~追放ざまぁから始まる、戦わない最強支援職の物語~  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/34

第19話 祈りの現場

 街は、静かだった。


 活気がないわけじゃない。

 人はいる。市場も開いている。


 ただ――どこか、息を潜めている。


「……前より、重いですね」


 リーナが、周囲を見回しながら言った。


「疫病が出たらしい」


 カイルが、短く説明する。


 国家の支援が届く前に、宗教側が動いた。

 ここは、王国神殿の影響が強い街だ。


 広場の奥、簡易の治療所に入ると、白い法衣の人影が見えた。


「次の人、こちらへ」


 若い神官だった。

 年は二十代半ば。疲労が、隠しきれていない。


「……奇跡、あと何回ですか」


 助手らしき者の声が、低く響く。


「三回」


 即答だった。


「だから、軽症者を優先します」


 迷いのない判断。

 だが、その言葉の裏で、誰かが救われない。


 俺は、一歩前に出た。


「手伝います」


 神官が、こちらを見る。


「……冒険者、ですか?」


「はい。回復支援ができます」


 一瞬の沈黙。


「神官以外の回復は、認められていません」


 きっぱりとした口調だった。


「ですが」


 神官は、俺の顔を見て、少し言葉を緩めた。


「あなたがやるなら、

 “奇跡”は必要なくなるかもしれない」


 その目には、警戒と……期待が混じっていた。


「名前は?」


「レオンです」


 彼女は、一瞬だけ目を見開いた。


「……あの?」


「多分、その“あの”です」


 苦笑すると、彼女は小さく息を吐いた。


「イオナと申します」


 それだけで、話は通じた。


 治療は、静かに進んだ。


 俺は、奇跡を使わない。

 祈りも、唱えない。


 ただ、体のズレを戻す。


「……熱が下がってる」


「呼吸も安定した」


 周囲が、ざわつく。


 イオナは、黙って見ていた。


 数時間後、治療所は落ち着いた。

 死者は、出ていない。


 外に出ると、夕暮れだった。


「感謝します」


 イオナが、深く頭を下げる。


「でも……」


 彼女は、言葉を探した。


「あなたがいると、

 私は“祈らなくてよくなる”」


 それは、責める声じゃなかった。


「それが、怖いんです」


 正直な言葉だった。


「神に祈る理由が、

 少しずつ、消えていく」


 俺は、すぐには答えられなかった。


「……俺は、祈りを奪いたいわけじゃない」


 やっと、それだけ言う。


「分かっています」


 イオナは、頷いた。


「でも、結果は同じです」


 遠くで、鐘が鳴る。


 祈りの時間を告げる音。


「上は、あなたを危険視しています」


 イオナは、静かに続けた。


「国家とも、神殿とも違う理由で」


 それは、予告だった。


「ここは、現場です」


 彼女は、はっきり言った。


「明日も、人は倒れます。

 奇跡は、足りません」


 視線が、俺に向く。


「それでも、来てくれますか」


 命令でも、依存でもない。

 ただの、問い。


 俺は、頷いた。


「……行ける限りは」


 イオナは、少しだけ笑った。


「では、その時は……

 祈らない神官と、

 祈られない支援職ですね」


 夕焼けの中、治療所に戻る背中は、小さかった。


 でも、確かに――

 俺と同じ場所に立っていた。


 正解のない現場で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ