第17話 決められる側
その会議に、俺はいなかった。
いや、正確には――
**呼ばれなかった。**
円卓を囲むのは、王国軍上層、行政官、そして神殿代表。
アルベルト王子は、末席に座っている。
「議題は明確です」
軍部の男が、資料を広げる。
「支援対象レオンの今後の処遇について」
その言い方に、ユリウス大神官が眉をひそめた。
「“対象”とは、随分な表現ですね」
「事実でしょう」
男は即答する。
「彼の行動は、規定を逸脱した。
善意であろうと、統制外は危険だ」
「だからと言って、閉じ込めるおつもりですか」
神官の声は、冷静だった。
「隔離ではありません。
**安定化**です」
その言葉が、空気を固める。
「彼の支援は、国家にとって不可欠。
同時に、世界秩序に影響を与え始めている」
別の官僚が、静かに続けた。
「神殿としては?」
視線が、ユリウスに向く。
「排除は、望みません」
意外な答えだった。
「彼は、悪ではない」
だが、と続ける。
「人が神に委ねる“選択”を奪う力を持つ。
放置はできません」
結論は、ゆっくりと形を取る。
「――一時的な、世界からの切り離し」
その言葉に、アルベルト王子が顔を上げた。
「待ってください」
彼は、珍しく感情を表に出した。
「それは、彼を壊します」
「壊れる前に、止めるのです」
軍部の男は、淡々と言った。
「彼一人より、世界全体を優先する」
沈黙。
最終的に、決議は保留となった。
だが、方向性は決まった。
――**選択肢は、狭められている。**
その頃。
施設の一室で、俺は何も知らずに報告書を読んでいた。
いや。
知らないわけじゃない。
空気が、変わっている。
警備の交代が、早い。
視線が、増えている。
「……何か、決まったな」
呟いた瞬間、扉がノックされた。
セラフィナだ。
「少し、散歩しませんか」
それだけで、十分だった。
庭の奥。
人の気配がない場所まで歩く。
「会議が、ありました」
彼女は、はっきり言った。
「あなたの“処遇”について」
胸が、静かに締まる。
「結論は?」
「まだです」
だが、と続ける。
「このまま行けば、
あなたは“選べない場所”に置かれます」
俺は、笑ってしまった。
「……もう、だいぶ選べてませんけど」
セラフィナは、真剣な顔で言った。
「いいえ。
あなたは、まだ“選べます”」
彼女は、一歩だけ近づく。
「その代わり、
**ここを出る覚悟が必要です**」
風が、木々を揺らす。
「逃げる、という意味ではありません」
彼女は、言葉を選んだ。
「あなたが“機能”になる前に、
人として立つ場所を選ぶ、という意味です」
俺は、空を見上げた。
守られている場所。
安全で、正しくて、窮屈な場所。
そして、その外にある――
不完全で、危険で、選択がある世界。
「……時間は?」
セラフィナは、静かに答えた。
「ほとんど、ありません」
その言葉で、理解した。
これは、もう準備段階じゃない。
**分岐点**だ。
俺が、
支援“される側”で終わるか。
支援“する側”として、立ち直すか。
夜が、深くなっていく。
そして、世界は今日も――
俺抜きで、決断を進めていた。




