第16話 許可のない支援
違反だと分かっていて、やったわけじゃない。
最初は、本当に偶然だった。
夜明け前。
眠れずに、部屋の窓を開けていたときだ。
遠くで、悲鳴が聞こえた。
訓練場の方向。
この時間に、人が集まるはずがない。
「……事故?」
反射的に、身を乗り出す。
規定では、外出は不可。
緊急時でも、同行者と許可が必要。
分かっている。
でも。
――近い。
判断より先に、体が動いた。
施設の裏手。
警備の死角を抜ける。
自分でも驚くほど、迷いはなかった。
訓練場では、若い兵士が倒れていた。
魔力暴走。
訓練用魔導具の不具合だ。
「呼吸が……!」
周囲は混乱している。
神官もいない。回復役もいない。
俺は、躊躇しなかった。
――整える。
ほんの数秒。
暴走が収まり、呼吸が戻る。
「……生きてる」
誰かが、震える声で言った。
その瞬間、背後から声がした。
「レオンさん」
セラフィナだった。
走ってきたのだろう。息が乱れている。
「……やってしまいましたね」
責める声ではなかった。
「はい」
それしか言えなかった。
すぐに、上が動いた。
事情聴取。
事実確認。
規定違反の指摘。
処分は、意外にも軽かった。
「今回については、不問とする」
軍部の男が、そう告げる。
「結果的に、命は救われた」
だが、その次の言葉が本題だった。
「だが、次はない」
施設に戻ると、通達が貼られていた。
――外出制限、厳格化。
――警備体制、再編成。
守りが、厚くなる。
夜。
セラフィナが部屋を訪れた。
「……後悔していますか」
俺は、少し考えた。
「してません」
即答だった。
「助けられる場面で、助けなかったら……
それはもう、俺じゃない」
セラフィナは、静かに頷いた。
「なら、覚えておいてください」
彼女は、低い声で言う。
「今日の件で、あなたは
“管理不能”として記録されました」
その言葉は、静かだったが、重い。
「国家は、あなたを失いたくない。
宗教は、あなたを危険視している」
彼女は、はっきり言った。
「そして今日、
あなたは“自分で選んだ”」
部屋に、沈黙が落ちる。
窓の外では、何事もなかったように夜が流れている。
小さな違反。
小さな支援。
だが、俺は確信していた。
これは、
**戻れない一歩**だ。
合理性の枠から、
俺がはみ出した瞬間だった。




