第14話 合理的な提案
会議室は、以前よりも人が増えていた。
アルベルト王子のほかに、軍部の高官が二名。
書類の束と、地図が広げられている。
「先日の件について」
口火を切ったのは、王子ではなかった。
「あなたが不在だった戦線で、重傷者が出た」
事実だ。
否定の余地はない。
「致命的被害ではなかった。
だが――あなたがいれば、防げた可能性が高い」
俺は、黙って聞いていた。
「これは、責任追及ではありません」
そう前置きしてから、その男は続けた。
「運用の問題です」
地図の上に、指が落ちる。
「あなたの支援を、
より確実に、より迅速に届ける必要がある」
嫌な予感が、はっきりした形になる。
「そこで、提案があります」
男は、淡々と言った。
「あなたの行動範囲を、前線基地内に限定する」
空気が、一段冷える。
「移動時間を削減し、即応性を高める。
結果として、救える命が増える」
理屈は、完璧だった。
「外出は、原則禁止。
面会は、許可制」
俺は、王子を見た。
「……殿下も、同意ですか」
アルベルト王子は、すぐには答えなかった。
「必要だと……判断されました」
彼の声には、迷いがあった。
「あなたを守るためでもあります」
また、その言葉だ。
会議は、それで終わった。
決定事項として。
施設に戻ると、空気が違っていた。
警備の配置が、増えている。
門は、開いているが――以前より遠い。
「変更点を、説明しますね」
セラフィナが、資料を持ってきた。
「外出は、原則不可。
緊急時のみ、同行者付きで許可されます」
「……俺の意思は?」
彼女は、少しだけ言葉を選んだ。
「考慮は、されました」
その表現で、十分だった。
夜。
部屋に戻ると、窓の外に兵の影が見えた。
見張り、ではない。
警護、だ。
「……合理的だな」
誰に言うでもなく、呟く。
実際、正しい。
俺が動かなくて済むなら、助かる命は増える。
それでも。
胸の奥で、何かが確実に削られていく。
遅れて、セラフィナが部屋を訪ねてきた。
「……ごめんなさい」
彼女が、頭を下げる。
「私の権限では、止められませんでした」
俺は、首を振った。
「あなたのせいじゃない」
本心だった。
「ただ……」
言葉を探す。
「このままだと、
俺は“支援する人間”じゃなくなります」
セラフィナは、はっきりと頷いた。
「ええ。
“支援という機能”になります」
その夜、俺は眠れなかった。
外は静かだ。
安全で、守られている。
なのに。
ふと、思った。
もし次に、
**俺が“ここにいるべきではない”と判断されたら。**
その時、
俺には、選択肢が残っているのだろうか。
合理性の名の下に、
世界は今日も、正しく進んでいる。
――俺を、置き去りにしながら。




