第10話 功績の代償
戦場の後は、奇妙な静けさに包まれていた。
死体がない。
担架の列も、ない。
勝利の報告は、すぐに王国中枢へ送られた。
その速度だけは、異常に早かった。
「……英雄扱い、だな」
カイルが、遠巻きに集まる兵士たちを見て呟く。
視線は、俺に集まっている。
正確には――俺の“後ろ”だ。
「前線支援担当、レオン殿!」
将校の声が響く。
「今回の戦果、あなたの貢献は極めて大きい!」
拍手が起こる。
称賛。感謝。安堵。
全部、正しい。
だからこそ、居心地が悪かった。
その日の午後、俺は単独で呼び出された。
場所は、前線基地の最奥。
簡素だが、逃げ場のない部屋。
アルベルト王子と、見慣れない数名が待っていた。
「功績に感謝します」
王子は、そう言ってから続けた。
「そして――提案があります」
嫌な予感しかしない。
「今後、あなたの支援は
王国管理下で運用したい」
言葉は柔らかい。
内容は、硬い。
「前線への投入頻度、支援範囲、同行者。
すべて、こちらで調整します」
俺は、息を吸った。
「それは……専属と、何が違うんですか」
「国家規模になる、という違いです」
はっきり言われた。
「あなたは“偶然の切り札”ではない。
戦力として、再現可能であるべきです」
その一言で、理解した。
彼らは俺を
**個人ではなく、機構にしようとしている**。
「拒否は?」
「できます」
即答だった。
「ただし――」
王子は視線を伏せた。
「次に同規模の戦闘が起きた場合、
あなたがいなければ、死者は出ます」
脅しではない。
事実だ。
部屋を出たあと、リーナが待っていた。
「顔、ひどいよ」
「……うん」
何も隠せなかった。
「ねえ、レオン」
彼女は、はっきり言った。
「世界があんたを放っておかないのは、分かってたでしょ」
分かっていた。
でも、向き合う覚悟まではなかった。
その夜。
前線基地の一角で、小さな祝宴が開かれた。
酒が回り、笑い声が上がる。
「レオンがいれば、もう負けないな!」
「次も頼むぞ!」
軽い言葉。
だが――重い。
グラッドが、少し離れた場所からこちらを見ていた。
彼は、もう何も言わない。
分かってしまったからだ。
この力は、
持つ者を幸せにするが、
自由にはしない。
夜更け。
俺は、王子から渡された書類を開いた。
そこには、次の作戦予定。
投入想定。
支援範囲拡張案。
そして、最後のページ。
――**長期保護措置(非公開)**
「……保護、か」
窓の外で、夜風が鳴る。
俺は、まだ選んでいない。
だが――
選ばされる時間は、確実に近づいていた。




