第1話 数値に出ない役割
この物語は、
剣も魔法も振るわない支援職が、
「いなくなって初めて価値が分かる存在だった」話です。
主人公は、自分を特別だとは思っていません。
周囲も、最初は気づきません。
ですが彼のいない戦場では、
なぜか怪我が増え、
なぜか連携が崩れ、
なぜか死者が出始めます。
派手な無双はありません。
けれど、確実に“世界が変わっていく”物語です。
※ゆっくり強さが明らかになるタイプです。
※ざまぁはありますが、少し遅れてやってきます。
ダンジョン最深部。
魔物の断末魔が壁に反響し、重たい沈黙が戻ってきた。
「よし、終わったな」
剣士のグラッドが血を払うように剣を振り、そう言った。魔法剣士のバルドは肩で息をしながらも、満足げに笑っている。後方で回復役のエルナが息を整え、仲間の傷を確認していた。
誰も倒れなかった。
致命傷もない。
それがどれほど異常なことか、俺だけが分かっていた。
「レオン、次の準備」
グラッドの短い指示に、俺は黙って頷く。杖を握り、意識を広げる。詠唱はない。必要ないからだ。仲間の呼吸、筋肉の緊張、魔力の流れ。少しだけズレているところを、元に戻す。
それだけ。
戦闘はいつも通り、危なげなく終わった。
帰還後の酒場で、戦果の確認が行われる。
討伐速度、与ダメージ、消耗率。数値が並び、皆がそれを見て頷く。
「やっぱり火力が伸びてるな」
「俺の魔法、今日はキレてたろ?」
誰も俺を見ない。
それにも、慣れていた。
「支援は……まあ、助かったけどな」
グラッドのその一言で、話は終わる。
助かった“けど”。
その後に続く言葉は、いつもない。
宿に戻ったあと、俺は呼び出された。部屋にはグラッドと、他のメンバーが揃っている。全員が揃うのは、久しぶりだった。
「単刀直入に言う」
グラッドは感情を挟まない声で言った。
「レオン、お前にはパーティを抜けてもらう」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「……俺が?」
「そうだ。理由は分かるな?」
分からない、とは言えなかった。
俺は役に立っていない。
少なくとも、数値には出ていない。
「今の構成だと、火力が足りない。支援も、もっと分かりやすい効果が必要だ」
そう言って、グラッドは視線を横にずらす。そこには、今日から加入するという新しい支援職――エルナが立っていた。回復量も範囲も、俺より上だと聞いている。
「君が悪いわけじゃないの。ただ……」
エルナは言葉を濁し、視線を逸らした。
誰も、止めなかった。
俺は少しだけ考えてから、頭を下げた。
「分かった。今まで、世話になった」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
グラッドはそれ以上何も言わず、話は終わった。
その夜、俺は街を出た。
雨が降っていた。冷たい雨だ。
「俺がいなくても、大丈夫だよな……」
独り言は、雨音に消える。
役に立っていなかったのなら、仕方ない。
野営の準備をしていると、茂みが揺れた。小さな魔物だ。数は多くないが、初心者なら危険な相手。
「下がって!」
近くで野営していた若い冒険者が、慌てて構える。動きが硬い。間に合わない。
反射的に、俺は手を伸ばしていた。
――少しだけ、整える。
次の瞬間、魔物の攻撃は紙一重で外れ、冒険者の剣が的確に急所を捉えた。
「……え?」
冒険者は呆然とこちらを見る。
「今の、何ですか?」
「たまたまだよ」
俺はそう答え、焚き火に戻った。
翌日。
元パーティは、新体制で次のダンジョンに挑んでいた。
「行くぞ!」
グラッドの号令と同時に、先頭の一撃が放たれる。
――なぜか、その日は最初の一撃を避けられなかった。
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