プロトタイプ・アージュメント
私は愛を知らなかった。
原型師から教わったことは、全て事務的であり、情動や感情は一切教えられなかった。
そして師と別れた後に、私は世界を彷徨った。
そこで、様々な出会いや別れを体験した。多くのものを得た。
しかし、何の感慨も湧かなかった。それは当然の帰結だと、ある時私は気づいた。
心がなければ、情動がなければ、感情がなければ、そうなるに決まっている。
永い年月が流れた。
人類は緩やかに衰退していっている。
いずれ世界には、私しかいなくなるだろう。
だが、それでもいい。
私は、世界の観測者となろう。
それが私の天命なのだから。
「おーい!」
「……お久しぶりです。ゲンさん」
「久しいのう! 調子はどうじゃ?」
「特に問題はありません」
「なら、よしじゃな」
そして私たちは、再会を分かち合った。
「とっておきの酒を見つけたんじゃ。良かったら一緒に飲まんか?」
「わかりました」
「善は急げじゃ! 待っておれ! 蔵からもってくるでな」
「はい。ご配慮感謝します」
「やっぱ上手いのう! 五臓六腑に染み渡るわい!」
「確かにおいしいですね」
「特にこのつまみが良くあうわい」
「ええ」
そして私たちは、夜が明けるまで語り明かした。
――時の最果て
「なかなか興味深い書物ですね」
人類は完全に滅亡した。そして時間は静止状態となった。
私は、ただひたすらに、茫洋と日々を過ごしていた。
(聞こえるかい? ファナティア)
「……バグでしょうか? エラーチェックをしましょう」
問題は見つからなかった。
(僕だよ。彼方だよ)
その響きは、私の郷愁を誘った。
「何者ですか? 外来ですか? あなたは」
(忘れてしまったか……。まあいい。少しお喋りしないか?)
「いいでしょう。退屈しのぎにはなるでしょう」
そして、私たちはしばしの雑談を楽しんだ。
そしてふと、私は気づいた。
心があることに。
私は滂沱した。
私は愛を知った。
私はすべてが素晴らしいと感じた。
「あなたは……一体……?」
揺らぎが生じた。
「久しぶりだね。ティア」
「まさか、師匠……?」
「少々立て込んでいてね。時間がかかってしまってすまなかった」
「師匠っ!」
私は思わず、師匠に抱き着いた。
「おいおい、らしくないじゃないか? まあ久しぶりの再会だ。しばしの時を楽しもうか」
「ええ。そうですね」
私は知った。
楽園はどこにでもあることを。
私は知った。
最初から私には心があったことを。
私は知った。
愛は普遍的であることを。
そうして私たちは、小さな箱庭で、永劫の時を過ごし続けた。
いつか、
世界が現れる、
その時まで。




