第1話:無能の烙印と、神の贈り物
目の前で、巨大な魔物が断末魔を上げる。
影狼。本来なら、この初級ダンジョンの深層には存在し得ない、A級冒険者(スキルレベル6)が束になっても逃げ出す最上位種の魔物だ。全身を影に包まれ、その口からは瘴気の涎を垂らしている。つい数秒前まで、俺の命を刈り取ろうとしていた化け物だ。
そして、その影狼が今、塵となって崩れ去ろうとしている。
「ふう……危なかった」
俺はため息をついた。アレス・グレイ、17歳。この世界に転生して以来、ずっと**『無能』**の烙印を押され続けてきた高校生だ。
この世界では、10歳の誕生日を迎えると誰もが**【ユニークスキル】を授かる。俺が授かったのは、【無限創造】。誰も聞いたことのない、効果不明の「クソスキル」**と世間では見なされていた。
――いや、見なされていた、ではない。今まさに、この影狼との遭遇に至るまで、俺自身もそう思い込んでいた。
「アレス。お前みたいな無能は、足手まといだ。最深部に着いたら、その辺で大人しく待ってろ」
ダンジョンに入る直前、クラスのリーダー格である剣術スキルの持ち主、ジンに吐き捨てられた言葉だ。他のクラスメイトたちも、俺をまるで邪魔な石ころのように扱った。最深部の手前、人気の少ない広間に放置された時、正直、心は折れていた。
しかし、その直後、本来いるはずのない影狼が俺の前に現れたのだ。ジンたちは恐怖に顔を歪ませ、一言の謝罪もなく一目散に逃走した。
絶体絶命。誰も助けに来ない。その瞬間、俺の中に秘められていた前世の記憶と、神々から受けた祝福の真実が溢れ出した。
「ふざけるな……。俺は、神々から万能の祝福を受けた異世界の転生者だぞ。こんな雑魚に食われるために、もう一度生き返ったわけじゃない」
そう、俺の【無限創造】は、効果不明なんかじゃない。それは、「万物を無から創造し、世界の法則さえも書き換える」、**レベル10(神レベル)**のチートスキルだった。ただ、あまりにも膨大すぎて、その力を自覚できていなかっただけだ。
俺は、影狼が飛びかかってくる一瞬の間に、頭の中で三つの概念を創り上げた。
一つ、「万能の身体能力」の概念を創造。俺の身体には、**【神速】【剛力】【不滅】**という、世界で最強とされるレアスキル群が瞬時に付与された。
二つ、「万物を砕く一撃」の概念を創造。右手に握ったのは、ただの鉄の棒だが、その先端に**「絶対破壊の法則」**を付与した。
三つ、「絶対的な隠蔽」の概念を創造。俺の真のスキルレベルが周囲に漏れないよう、レベル5(上級)相当の魔力で覆い隠した。
$<<無限創造>>$が発動する。
影狼の動きが、まるでスローモーションのように感じられた。俺が踏み込んだ瞬間、空間が軋むような音を立て、影狼は、俺が創り出した**『神速』**の壁にぶつかった。
「消えろ」
俺は影狼のコアに向かって、鉄の棒を振り抜いた。それは、ただの物理攻撃ではない。「絶対破壊の法則」を纏った一撃は、影狼の存在そのものを概念ごと粉砕した。
ズザザ……と音を立てて、影狼は砂のように崩れ落ちていく。その場に残ったのは、影狼のコアと、そこから生まれたばかりの小さな魔物だった。
「これは……スライム?」
手のひらに乗るほどの大きさで、体色は透き通った銀色。まるで夜空の星を閉じ込めたかのように輝いていた。普通のドロドロしたスライムとは明らかに異質だ。そして何より、俺のスキルが反応している。
【無限種】
そのスライムは、俺の指先に身体を擦り付けてきた。
俺は、再び**【無限創造】**を発動させる。
一つ、「絶対テイムの概念」を創造。これは、対象の魔物がレベル10の神レベルに進化する未来を保証し、その魂を俺の存在と完全に結びつける法則だ。
二つ、「最速進化の概念」を創造。この仲間が、この世界で最も早く、最も強く、最終的にレベル10に到達するという法則を刻み込む。
三つ、「万能な能力付与」の概念を創造。戦闘、生産、知識、全てにおいて最強のポテンシャルを与える。
「お前は今日から、ルナだ」
俺がそう名付けた瞬間、銀色のスライム――ルナの身体が、虹色の光を放った。そして、俺の脳内に、ルナのステータスが流れ込んできた。
名前ルナ
種族スライム(無限種)
スキル【万能変異】【吸収】【超速再生】...(未開示のスキル多数)
レベル1
進化可能聖銀狼 → ???
聖銀狼……。影狼のコアから生まれたからか、ルナは狼へと進化するポテンシャルを秘めていた。しかも、**「聖銀」**とは、この世界で最も神聖視される金属だ。
ルナは俺の手の中でプルプルと震え、まるで喜んでいるかのように見えた。たった今、俺の人生は、『無能』から『世界最強』へと、世界の法則ごと書き換えられたのだ。
影狼を倒し、ルナを仲間にしたことで、俺の**『真のレベル』**は上限を突き破って上昇を続けている。だが、それを悟られてはいけない。
「さて、まずはこのダンジョンから、何食わぬ顔で脱出するか」
俺は、自分に課した**「レベル5の上級冒険者」のペルソナを再確認した。ルナを服の袖に隠し、足元に倒れている影狼のコアから、【無限創造】で「平凡な魔石」**を一つ創り出した。これは、俺が「レベル5の力で、なんとか影狼を倒した」と誤魔化すための偽装アイテムだ。
最強の力は、隠してこそ面白い。
俺の旅は、ここから始まる。ルナを最強の仲間モンスターに育て上げ、この世界で**「万能の力」**を駆使して、誰にも邪魔されない自由な生活を手に入れてやる。