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第99話 いちご狩り

 ヴァルトラントの名産物についてオクタヴィア姫にリストアップを依頼したが、それはすぐできるだろう。問題は姫の指摘通りその名産をどうやって聖女様に食べてもらうかだった。

 普通の国際関係であれば、ステファン王子殿下夫妻がヴァルトラントを訪問すればよいのだが、事件のせいでそれはむずかしだろう。ノルトラント内から反対意見が噴出するだろうし、ヴァルトラントも遠慮するにちがいない。

 ヴァルトラントは以前、ノルトラントに戦争をしかけ負けた国である。さらに今回の事件の責任がヴァルトラント側に無いわけではないから、聖女様が聖騎士団を率いて乗り込む手はある。ヴァルトラントは断らないだろうが、戦後処理は公的には終わったことになっている。戦闘部隊を進駐させれば、ヴァルトラントの国民感情はノルトラントに対して悪化するにちがいない。

 常識的にはミハエル殿下に頼んで国王陛下にヴァルトラント国王宛親書を出していただき、名産品を取り寄せることになるだろう。これが一番無難だが、とれたてではないし、元気になったヴァルトラントの国民を聖女様に見てもらうことはできない。


 私はいいアイデアが無いまま、困っていた。

 何度もヘレン先輩に相談しようかと思った。

 しかしヘレン先輩は、無理して忙しくしているように見える。ヘレン先輩は聖女様の様子に傷ついているのだ。傷ついているけれど、親友のため無理して元気にしている。他の先輩たちも全く同様である。

 男子の先輩たちもあてにならなかった。一見いつもどおりのしょうもない発言を繰り返すフィリップ先輩は、実はけっこう苦しんでいる。いわゆる男の意地でがんばっているだけだ。

 先輩たちは危ういバランスの上で、とにかく難局を乗り越えようとしていた。


 アイデアのヒントをくれたのは、あかねちゃんだった。


 ある日私は王宮に、まほちゃんみほちゃんあかねちゃんと一緒にステラ姫と遊ぶため呼ばれていた。ステラ姫は文字通り天使で、ミハエル殿下は書類仕事をステラ姫の部屋に持ちこんでいた。そして殿下はステラ姫を膝にのせたまま、書類に目を通していた。

 ヴェローニカ様はお皿に積まれたベリーを手に取り、ステラ姫、ミハエル殿下、そしてご自身の口へと、順々に運んでいた。

 子どもたちは椅子にお行儀よくすわり、やはりベリーを食べていた。


「れいこちゃん、ベリー狩りって、ないの?」

 あかねちゃんは、いちご狩りでも思い出しに違いない。

「うーん、聞いたこと無いね」

「そうなんだ、もったいないね」

「そうね、どっかの農家にアイデア、言ってみようか」

「はは、いいね、来年、楽しみ」

 あかねちゃんはステラ姫に負けない天使の笑顔で言った。


「レイコ、そのベリー狩りとは何だ?」

 ミハエル殿下やヴェローニカ様は私達の出身を知っているから本当の情報を出すことにした。

「ええとですね、ベリーの畑を入場料をとって、観光客に開放するんです」

「ふむ、それで何がおもしろいのだ」

「客はですね、自分でおいしそうなのを摘み取ってその場で食べるんです」

「それはうまいだろうな」

「ええ、とれたてですから」

「食べ放題だよ」

 あかねちゃんが口を挟んだので、説明する。

「その場でとったものは、いくら食べても追加料金はとらないということです」

「ならばたくさんとって、もちかえればよいな」

「その場合は量り売りになります。それでも普通に買うよりは格安です」

「なるほど、客にとっていいのはわかったが、農家にどんなメリットがあるのだ?」

「うまく価格設定すれば、普通に出荷するより多くの現金収入が見込めます。そのほか収穫は客が自分で行うので、その労働はありません」

「はは、売りつける相手にやらせるわけだ、それはおもしろいな」

「ヴェローニカ様、楽しいよ」

「うん、そうだな、そんなものがあれば、ぜひステラを連れていきたいな」

 するとミハエル殿下がおっしゃった。

「我が国では農園まで観光客を連れて行くのがたいへんだな。そうだ、王室の農園なら、近いか」

 殿下はお金儲けにも興味があるのかもしれない。王室の財政状況がちょっと心配になった。


 騎士団に帰って考える。


 自動車の無いこの世界、いちご狩りなんてものは無い。だがもし聖女様に採れたての美味しい果物でも食べてもらえたら、聖女様の気持ちが明るくなり、元気を取り戻してもらえるかもしれない。その果物はぜひ、ヴァルトラントのものを食べてもらいたい。そして果物を作るヴァルトラントの農民たちが、元気に働いている姿を目に焼き付けてきてもらいたい。

 そうすれば戦争とその後の聖女様の努力が、無駄なものなんかではなく、むしろヴァルトラントの民のためになったことを実感してもらえるに違いない。


 翌日聖女様が女学校で授業をしている時間を狙って、私はステファン殿下に面会を求めた。


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