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第92話 投石

 その晩はそのまま徹夜になった。礼拝堂の隅にシートが引かれ、交代で仮眠をとった。


 朝になると王宮から伝書鳩魔法で、すべての国境が閉鎖されたことが知らされた。そして第一騎士団、第二騎士団が出動体制を整えつつあるとも伝えられた。それを聞いた聖女様は、

「そう」

としか言わなかった。戦争が大嫌いな聖女様のその反応が意外で、私は聖女様の手をとろうとした。すると聖女様はさり気なく手を引っ込めてしまった。

 そのまま打ち合わせがはじまり、街の封鎖や難破船の船員たちの監禁が指示通り行われていることを聞いた聖女様は、

「では去年の幕営地に設営をします。船員たちの取り調べは聖騎士団で早急に行います。玲子ちゃん、協力をおねがいします」

「はい、承知しました」

「ギュンター町長」

「もうしわけないのですが、住民の自宅待機は、船員の取り調べが終わるまで継続します」

「はい、聖女様のお怒りはごもっともですが、住民の生活が……」

「いいえ、なんの罪も無い住民の皆様には申し訳ないのですが、これは船員を守るためなのです」

「え」

「住民の中には今回の事件で船員たちに強い反感を持っている方がいらっしゃると思います。今は物理的に両者を引き離しておきたいのです」

 物理という単語をなんの感情もなく口にする聖女様は、私の知る聖女様ではなかった。


 私は難破船の船員全員の尋問に立ち合うことになった。


 尋問はフィリップ先輩を中心に行われた。ケネス先輩が記録、マルス先輩は怖い顔をして船員の近くに立つ。その他親衛隊からマリカさん、エリザベートさんも来ていてやはり怖い顔をしている。私は尋問の間船員の手を脈を取るふりをして触れ続け、嘘を言っていないか確かめる。

 フィリップ先輩は尋問を始める前、一人ひとりに必ず言った。

「聖女様の拷問、知っているか」

 知らないと答えたら、先の戦争で捕虜を捉えた際、自殺を図る捕虜にいちいち蘇生魔法をかけた話を聞かせた。

「貴様たちは慈悲深い聖女様をして犯人を殺して捨て置くほどの気持ちにさせたのだ。嘘をついたらどうなるかわかっているな」

 いつもふざけているフィリップ先輩が見たこともない真剣な顔であった。


 はじめは船長だった。

「私は、ディディエといいます。もともとあの船の持ち主であり船長でしたが、賭け事の借金で首がまわらなくなり、帝国の公安部から今回の任務を与えられました」

「任務とは何だ」

「船を座礁させ、船員に紛れ込ませたスパイをノルトラントに送り込むことです」

「暗殺もその任務のうちか」

「いえ、とんでもないです。彼は今回の航海で初めてやとった者ですが、公安のものかどうかはわかりません」

 私は小さく頷いて、フィリップ先輩に嘘はついていないことを伝えた。


 船員の幹部の一部がスパイだった。

「私は、この船では今回の航海が初めてですが、座礁は事故です。横で見ていてなんて下手な船長なんだと思いました」

 私は首を横にふる。マルス先輩が剣を抜いた。

「信じてください」

 そうスパイが言った瞬間、マルス先輩が彼の手首を切り落とした。

「玲子さん、くっつけてください」

 マルス先輩の冷たい声で、私はあわてて治癒魔法をかけた。

 あんまりきれいにはつかなかった。

「足でも首でもいいんだよ」

 そう言うマルス先輩の目は狂っていた。


 スパイは結局8人いて、全員1回は手首を切り落とされた。


 一日全部使って、船員全員の尋問は終わった。船長とスパイの8人はラーボエにある牢に収容された。しかし殿下を傷つけた犯人については、彼の名がシモンであること、出身がヴァルトラントであることしかわからなかった。


 夕方、住民の自宅待機が解かれた。


「玲子ちゃん、たいへんだったね。お疲れ様。ありがとうございました」

 夕食時、私は聖女様に声をかけられた。

「いえ、聖女様こそ1日中指揮で大変でしたでしょう」

「そうね、今日一日で伝書鳩何回使ったかわからないわ。王宮も大騒ぎみたいよ」

「そうでしょうね」

「陛下は大変お怒りで、帝国へ国交断絶の書状を送ったそうよ」

「え」

「ま、公安当局の指示だということがわかっちゃったんだからしかたないよね」

「せ、戦争ですか」

「さすがにそこまではいかないでしょう。女学校にはカトリーヌさんもいるしね。人質みたいなもんよ」

 カトリーヌさんは、帝国の時期聖女候補の一人と聞いている。聖女様は言葉を続ける。

「私としては、帝国出身の女子大の学生がへんなことにならなければいいとおもうんだけど」

 優しいことを聖女様は口にしているが、そのお顔は能面のようだった。


「伝令! 伝令!」

 夕食の部屋に声が轟く。レギーナさんが伝令に報告するよう指示した。

「難破船の船員キャンプに、ラーボエの住民が集結しています。住民はみな殺気立っています」

「いかん!」

 そう叫んで立ち上がったのはステファン殿下だった。

「うん、私が行く」

 聖女様は落ち着いた声でいい、親衛隊のメンバーを何人か連れて出動して行った。


 あとで聞いた話だと、住民はキャンプを取り囲んで石を投げ始めたのだそうだ。聖女様たちが到着したとき、船員たちはテントの外に出てだまって石に打たれていたそうだ。聖女様は無表情でその様子を見ていたが、やがて住民たちは静かに帰宅していったとのことだった。


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