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第91話 聖女様の指揮

 ステファン先輩は太ももを刺されていた。幸い太い動脈は無事で、命は助かった。というよりも取り乱した聖女様の回復魔法で健康そのものにみえるくらい回復していた。


 平静を取りもどした聖女様は、犯人を斬り殺してしまったことについて、

「ああ、殺しちゃったわね。これじゃ尋問もできない。ここまでちゃんと死んじゃうと、蘇生も無理だわ」

と言った。


 そして停車したままの馬車を指揮所として、騎士団に命令を出し始めた。

「ディアナ!」

「ハッ!」

「難破船の船員を全員確保してください。確保後は、キャンプに監禁してください」

「ヘレン! ネリス!」

「ハイッ!」

「ステファンと玲子ちゃんを安全な場所に案内して。二人はそのまま二人の警護をおねがいします。必要な人員は、二人に任せる」

「わかった」

「フローラ!」

「ハイッ!」

「警備隊を編成し、街内の巡回をお願い。街の住民など一般民衆は全員自宅待機させて。ここを中心として半径5000ネリス以内を外出禁止とする」

「わかった」

「ギュンター町長!」

「はい」

「こういう状況ですから、ご協力ください。街の警備担当者はフローラと協力して住民がすべて在宅しているか確認してください。その際、住民が食事や水など必要であれば、それは騎士団から住民に提供します。情報を共有してください」

「レベッカ!」

「街に通じるすべての道を封鎖してください。街から出ることは一切禁止、街へ入る場合は拘束し、住民であればその家へ、そうでなければ町役場へ送ってください。そこで軟禁します」

「ハッ!」

「ルドルフ!」

「ウォン」

「上空で待機し、街から脱出しようとする人を拘束して。ただし、手に余るようなら殺しても構わない」

 聖女様の口から恐ろしい言葉が出た。ルドルフくんは反論せず、空へと飛び立った。

 それを聖女様は少し見送り、言葉を続けた。

「当面状況が落ち着くまで、この場所を騎士団の仮本部とします。落ち着いたら去年と同じキャンプ地で野営しますが、場合によっては徹夜になります。総員無理をせず、交代で休息を取るように。レギーナ!」

「このように私は取り乱しています。人員の配置など細かいことはレギーナに一任し、責任はすべて私聖騎士団長アンがとります。もちろん、殿下にお怪我を負わせたことも、私の責任です。レギーナ、頼みます」

「ハッ!」

 そして聖女様は一同を見回した。

「なにか質問は?」

「では全員、カカレ!」


 ヘレン先輩、ネリス先輩に私とステファン先輩は教会内へと導かれた。その他十人ほどの騎士が警備についてくれている。礼拝堂の椅子に私はステファン先輩と並んで腰掛け、内心聖女様の行動に感心していた。これだけの大事を前にして、いくら騎士として聖女としての訓練もし、戦地の経験もあったとはいえ、冷静に指示を出すことができるのだ。レギーナさんには自分が取り乱していると言っていたが、とてもそうには見えない。

 だから私は聖女様の心について、安心していた。

 しかしそれは間違いだった。


「僕はアンが心配だ」

 少ししてからステファン先輩がつぶやいた。

「え、先輩、聖女様、しっかりしてましたよ」

「いや、あれは本来のアンじゃない。訓練で動いているけれど、感情がない」

「そうですか」

「うん」

 それっきり先輩は黙り込んでしまった。


 安全のため礼拝堂に入れられた私は、やることが何も無くなってしまった。なにか皆さんの役に立ちたいと思うのだが、非戦闘員である私はこんなときは足手まといにしかならない。だから時間の経つのがおそいのにイライラしながらも、私はだまってそれに耐えていた。


 暗くなってきて、礼拝堂に聖女様が入ってきた。

「いつまでも外にいるのもなんだから、ここを指揮所とさせてもらうわ」


 礼拝堂の中が片付けられ、どこから用意されたのか真ん中に大きめのテーブルが置かれ、真ん中に聖女様が座った。いや、ヘレン先輩に座らさられた。

 ステファン先輩の言う通り、聖女様はどこかおかしい。

 第一、礼拝堂に入ってきてもお祈り一つしていない。

 食事も出されたものをむしゃむしゃ食べるだけである。


 一度フローラ先輩が報告に入ってきた。警備体制について聖女様に報告したあと、フローラ先輩に「ちょっと」と呼ばれた。


 礼拝堂の隅で、フローラ先輩は私に言った。

「今回の事件、被害者は聖女様ね」

「私もそう思います」

「殿下が横にいるのに、デレデレしてないもんね」

 そうなのだ。普通聖女様は、スキあらば殿下にくっつこうとする。しかし今見える聖女様は殿下の横に背筋を伸ばして座っている。ステファン先輩の心配そうな表情が痛々しい。

「ありゃ聖女様、自分が許せないんだよ」

「はい」

「聖女様は今、感情をとりもどすとその責任感で自分が崩れちゃうのがわかっているんだと思う」

「はい」

「玲子ちゃん、聖女様、お願いね」

「はい」

「じゃ、また行ってくるわ」

「はい、お気をつけて」


「はい」と返事はしたものの、私はどうすればいいのか全くわからなかった。

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