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第82話 魔法の練習

 離宮での生活が始まった。およそ1年ぶりだし、この世界で私達がはじめて来たのはこの離宮だから感慨は無量だった。


 朝おきると、まほちゃん、みほちゃん、あかねちゃんといっしょに離宮の周りを散歩する。もちろん私の護衛の騎士もついてくるが、どの騎士さんも子どもたちと仲良しである。あかねちゃんはクワガタみたいな虫が気に入っていて、高いところに見つけると騎士さんにねだって採ってもらったりしている。それでは護衛にならないのではないかというと、実質的に索敵は私が行っているので問題ない。索敵は私、防御戦力として護衛騎士、と役割分担だ。


 この間聖女様は殿下とプライベートタイムを楽しんでいるはずだ。


 散歩から帰ると朝食だ。大食堂で離宮のほぼすべての人員と摂る。聖女様はこれをとても大事にしている。忙しい聖女様にとって、スタッフの顔をちゃんと見て、声を聞く貴重な機会なのだ。そのせいかスタッフからの苦情というか改善案が、その人の部署の上司から指揮系統を通してやってくるということは少ない。この事自体は王都における聖騎士団とか聖女庁とかも同じである。


 朝食後に事務仕事を集中的にやる。とはいっても聖女様は静養中なのだから、あまり長時間にはならない。ほとんど王都からの定期連絡に対し応じるだけで済む。この間子どもたちはお勉強だ。

 そのあとの午前中は、各自自由にのんびりと過ごす。勉強から開放された子どもたちにつかまって一緒に遊びにでることもあるし、工房を覗きに行くこともある。子どもたちが職人さんたちのじゃまをしないように気を使うが、職人さんたちはあまり気にしていないようだ。

 この間、聖女様はステファン殿下と私室でとても大事な時間をすごしているようで、私達はそれをじゃましないようにしていた。


 午後は研究の時間である。


 全員で同じテーマを研究してもいいのだが、研究・開発すべき事柄があまりにも多すぎる。それに各人の得意不得意もある。だからいくつかのグループに別れて行う。


 私と聖女様のこの夏のテーマは、レーザー魔法の完成である。だから聖女様と私の午後の研究の多くはレーザーにあてた。

「聖女様、念の為伺いますけど、波長、どうしますか?」

「赤でいいんじゃない?」

「そうですね、一番普通ですよね」

「あれ、緑かな?」

 そう言えば水準器とかレーザー墨壺とか、緑色だった気がする。

「赤なら700ナノメートルくらい、緑なら532ナノメートルくらいだったと思います」

「人間の眼って、緑のほうが感度が高いのよね」

「確かそうですね」

「じゃあとりあえず、緑でいこっか」

「はい」

「でさ、正確なイメージをもったほうが早く魔法が完成するだろうから、まずはレーザーの復習からしようか」

「はい」


 光は電磁波である。レーザー光はその波長が正確に一つである。それだけならLEDの光でもまあまあいいのだが、レーザーは波の頭とか谷とか(難しく言うと位相)が完全にそろっている。普通の光は位相は乱雑である。このため直進性が高く、それを私達は使いたかった。


「レーザーは光が誘導放出されなければいけないんだけど……」

「お言葉ですが聖女様、それは私達が魔法で発光させるのであまり問題ないのでは?」

「そうか、玲子ちゃん、じゃファブリ・ペロー共振器だけど……」

「それについてもこの世界では加工が難しいので、やはり魔法でなんとかするしか……」

「じゃあ玲子ちゃんは、レーザーの復習をするの、あんまり意味がないと思うの?」

「いえ、そんなことはまったく……」

 どうも聖女様はレーザー光自体をつくることよりも、それをだしにして物理の勉強をしたいだけな気がしてきた。

「聖女様、レーザーの誘導放出と共振器とかはゼミで扱ったほうが良くないですか? そのほうが殿下とか、全員で知識の共有ができるのではないですかね」

「そ、そうね、今は魔法に集中しましょう」


 私と聖女様は離宮の外に出た。離宮の北側にちょっと歩くと、大した面積ではないが開けたところがある。ゴツゴツと岩が出ていて、土壌が樹木の生育には適していないのかもしれない。ここならば光魔法を多少失敗しても、大きな被害はでなさそうだ。

「まず、緑の光を出してみよう」

 聖女様に言われ、やってみる。これは難なくできた。

「二人で波長を揃えよう」

 聖女様はそう言って、私の手を取った。


 聖女様の思考が流れ込んでくる。

『緑の光、波長532ナノメートル、多分』

『聖女様、多分、いらないですよ』

『手を繋いだまま、やってみる?』

『そうですね』

『では、エイ!』

 私と聖女様の手から、それぞれ強い緑の光が出た。

『やったやった、修二くん!』

 気持ちは理解できるのだが、その愛情いっぱいの思考はこっちが恥ずかしくなる。

『ごめん、つい』

『でもそれで、力が強くなるのですよね』

『そうなんだよね』

『でも気をつけないと、私、殿下のこと好きになっちゃうかもですよ』

『それは困る!』


「お二人で何をニヤニヤしてるんですか?」

 護衛に来ていたマリカに聞かれて、私はあわてて聖女様と手を離した。


 聖女様の顔は赤かった。

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