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第81話 川辺にて

 王宮での晩餐会の翌日、私は離宮へ向かう馬車に乗っていた。私の乗る馬車の同乗者は、まほちゃん、みほちゃん、あかねちゃん、さらにはヤニックさんである。

 どうも聖女様は私とヤニックさんの二人で馬車1台を占有させようとしたらしいのだけれど、さすがにやり過ぎということで子どもたちも同乗となった。


 王都から離宮まで1日がかりの旅は楽しかった。車内は暑いのではあるが、子どもたちのおしゃべりでその暑さもあまり感じなかった。

「ヤニックさん、昨日はすてきでしたね」

 まほちゃんが目を輝かせて言う。

「そうそう、かっこよかった」

 みほちゃんあかねちゃんも声を合わせる。

「いやいや私のような職人は、あんな偉い人ばっかりの席はつらいですよ」

「そうなの? でも今やヤニックさんは聖女様の肖像画で有名だよ」

「別に私は聖女様から指名されたわけではなく、離宮の職員だから肖像画を描くことになっただけですよ」

「そんなことよりね、れいこちゃん、ヤニックさん、男前だったよね」

「う、うん」

 昨日の私はと言えば一日早く会えたのがうれしくて、正直ボーっとしていた。

「れいこちゃん、ヤニックさん来るの、知らなかったんだって」

「うん、聖女様たち、私を驚かせたかったみたい」

 正直うれしくはあったが、余計なお世話という気もしないでもない。

「それにしてもヤニックさん、どうして王都にいらしていたの?」

「ええ、一昨日に離宮から買い出しにと命じられましてね、フランツさんから」

 フランツさんは離宮の職人頭である。

「ということはれいこちゃんを迎えに来たんじゃないの?」

 あかねちゃんがそう聞くとヤニックさんは困ったように、

「ええ、一応、仕事なんですよ」

と答えた。

「一応、ね」

と言って、あかねちゃんはニヤッと笑った。


 もしかしたらヤニックさんが王都に来たのは、子どもたちが呼んだからかもしれないと今更ながら気づいた。


 夏のノルトラントの景色は美しい。

 畑ならば見渡す限りゆったりとうねる畑が視界の限り続いていく。多くの畑は緑だが、なかには紫色や黄色の畑もある。野菜が花をさかせているのだろう。

 そしてところどころに木立が続いているのも見える。

「れいこちゃん、あの樹はなんであそこに生えてるの?」

 みほちゃんの質問に私は答える。

「多分あそこには川があるのよ」

 北海道の景色と、ここノルトラントの景色はとても似ている気がしている。私は札幌から富良野の方へ向かう際に見た景色を思い出していた。あの辺りならば遠くに十勝連峰とかが見えるのだが、こちらでも遠くに白い山が見える。聖女様とお仲間たちがこの地を愛するのは、生まれ育ったというだけでなく、どことなく北海道を思い出させる風景も大きな要因となっていることが伺われた。


 その木立のところで昼食となった。


 街道沿いのその場所は、私達と同じように休息をとる人が多いらしく、木立と街道の間は広場のようになっていた。馬車を降りて川に近づくと、川の水音が聞こえてくる。心做しか風も温度が低い気がする。

「気持ちい~!」

 子どものうちの誰かが大きな声を出した。ヤニックさんの顔からも笑みがこぼれている。聖女様はというと、手を太陽にかざしている。

「聖女様も、日差しがきついのでしょうね」

 ヤニックさんの声が聞こえる。

「ええ、私も帽子を被らないと」

と返事をしたが、近くからネリス先輩の声が、

「あれは太陽高度を測っておるな」

と言っていて、私もヤニックさんも笑ってしまった。


 聖女様は出されたテーブルに座り、いつものスタッフに囲まれている。私もそっちへ行こうとしたら、聖女様から謎の視線が飛んできた。首もなんだか少し横に振っている。するとヘルガさんが一つバスケットを持ってやってきて、

「聖女様が、川辺がすずしくていいのでは、とおっしゃっています」

と言ってきた。


 これはヤニックさんと二人で食べろ、と言う意味だと思う。

「ヘルガさん、ありがとうございます」

と私はバスケットを受け取り、聖女様へちょっと頭を下げた。聖女様はニッコリとして、お仲間たちとおしゃべりをはじめた。子どもたちもそのテーブルに居て、私に向かって手を振っている。


 川べりの岩を椅子代わりにして、ヤニックさんと並んで座る。昼食のサンドイッチもおいしいし、風も気持ちいい。すこし髪が乱れるのが気になる。食べ終わり、つめたいお茶を飲んでいたらヤニックさんに言われた。

「レイコさん、ノルトラントへいらして、もうすぐ一年ですね」

「ええ、やってきて、本当によかった。幸せに暮らしています」

「もっと幸せになってほしいと、私は思っています」

 ドキッとした。


 ヤニックさんの顔は、見たことがないくらい真剣だった。


 どう答えていいか、わからなかった。

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