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第8話 ネリス先輩のお話

 私達はメイドのヘルガさんに連れられて、聖女様より先に食堂へ向かった。ヘルガさんの名前は、部屋を出る前に聞いた。おそらくいろいろとお世話になるだろうからだ。


 食堂の入口にたどりつくと、ヘレンさんたち聖女様のお仲間6人はもう着席していた。私達が入室すると、食堂にズラッと並ぶ人たちがパッと起立した。私は思わず気をつけをし、きちんと頭を下げた。物音から皆さんも頭を下げたことがわかる。

 私たちにむけられたこのお辞儀は、私が聖女様の仲間だからしてもらえるだけだと瞬間的に思った。だから少なくとも年長者として私はしっかりしなければならない。そう思いながら頭をあげると人々も頭をあげた。


 おどろいた。


 みんな優しい笑顔である。かなりの数のここの人達は警備要員のはずだ。男性でも女性でも体つきでわかる。職務上笑顔などほぼ要求されていないこの人たちの暖かい顔を見ているとなにか安心できた。

 それは他の子達も同様だったようで、まほちゃんこそ硬い表情だが、みほちゃん・あかねちゃんはニコニコとしていた。促されて用意された席に着く。そこは食堂の奥で、ヘレンさん達が待っていて、そのほぼ真中だった。

 そしてすぐ、号令がかかり、聖女様とステファン殿下が入ってきた。聖女様は軽く手をあげて礼をするのを押さえている。さっさと歩いて私達のテーブルの真中に来て、

「みなさん、おまたせしてすみません。いただきましょう」

と言い、立ったまま胸の前で手を祈るように合わせた。私もあわてて他の人達にならって手を合わせて目を閉じると、ふわっと胸の奥があたたかくなった。

 目を開くと、聖女様が着席し、料理が運び込まれた。


 はじめにコンソメみたいなスープ、続いて野菜に肉を巻いたものも出た。見様見真似でつついている間にステーキみたいなのも出る。テーブルには最初からパンがおかれているので、これまた周りの人のマネをして食べる。

 ヘルガさんはみほちゃんとあかねちゃんの間に立って、パンを小さくしたりして食べるのを手伝っている。この調子なら二人はすぐにヘルガさんになつくだろう。

 食卓での話題はあたりさわりなく、気候とか景色のことに終止した。気を使って話題を選んでくれているのがわかる。対して食堂にいる沢山の人達は気ままな会話をしているように見える。

 デザートが出て食事は終わりになった。私達は自室に戻る。ネリスさんとマルスさんが付き添ってくれた。


 部屋に帰ると、お茶が用意されていた。

「うむ、みんな疲れたじゃろ。寝てもいいし、眠くなるまでおしゃべりしていてもいいし……」

 ネリスさんは優しく言ってくれた。私としては気になっていたことをネリスさんにぶつけた。

「あの、みなさんのこの世界での今までの活動をお教えいただけませんか」

「うむ、いいのじゃが、長いぞ」

「ええ、私として早く知りたいです」

 ほかの3人もうなづいている。

「そうか、じゃあ眠くなるまで話すかの?」

 ネリスさんはソファに私達を座らせ、自らはテーブルから椅子を持ってきて、背もたれを抱くように逆向きに座った。

「この世界で我らが出会ったのは、8才のときじゃった。我ら女子4名はバラバラの場所で生活していたのじゃが、先代の聖女様に飛び級で女学校に入学するよう言われてな、そこで出会い、お互いの前世を思い出したのじゃ……」


 そのあとネリスさんは女学校での生活・研究について語った。

「フローラの相方がケネスであろうということはわかっていたのじゃが、他の男子3人はどこにいるのか見当もつかんかった。じゃがこの国の中央で活動していればいつか会えると聖女様は信じていた。我らもそれを信じて女学校をがんばった」

 算術の勉強が簡単すぎ、独自の勉強をしてきたこと。

 騎士団の支援を得て、特別に訓練を受けてきたこと。

 そのかわりヘレンさんがアップルパイとかマヨネーズとかをこの世界にもたらしたこと。

 死にかけたドラゴンに卵を託され、ルドルフが生まれたこと。

 女学校を卒業して、杏さんが聖女に就任したこと。

 聖女様の故郷の森で魔物と戦い、ルドルフと再会したこと。

 パートナーをさがすうちに戦争を予測し、対策し、防衛戦に勝利したこと。また、それを通してかつての仲間全員と出会えたこと。

 この離宮に天文台を建設し、新星を発見したこと。

 女性の社会進出の支援のため女子大を設立したこと。

 そして8人が結婚したこと。


 その中でも戦争はとてもつらい経験であったようで、ネリスさんは涙ながらに語った。

「戦争を勝利に導いたからな、聖女様は国民にも軍部にも絶大な人気と信頼がある。じゃが聖女様は戦死した者たちへの責任感が強い。心にも傷を負っていないとは言い切れない。そのことで聖女様の気持ちが揺らいだとき、わしらは必死に聖女様を支えてきた。できたらみんなにも、そのときは聖女様に寄り添ってほしいのじゃ」


 私は彼女がこの世界でこんな苦労をして生きてきたことを知らなかった。もちろん教えてくれたネリスさんもそうである。私達のことでものすごく責任を感じてしまう聖女様に少し違和感を感じ、ただ単なるお人好しなのかとも思っていた。


 そうではない。小さな子どもとしてこの世界に来てしまい、仲間と出会いながら強く生きてきた。私達も同様な人生を送るのかもしれないと心配してくれているのだ。

「ネリス先輩」

「うむ」

「私は今、この世界で生き抜く覚悟ができました。わからないことだらけですので、どうかよろしくお願いいたします」

「うむ、もちろんじゃ」


 私は大人だから負けるわけにはいかない。子どもたちは大丈夫かと傍らをみると、三人とも強い顔をしていた。

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