第77話 隣国からの受験生
女子大1日めは午前は筆記試験、午後から面接である。午後の面接について、私は面接官を務める聖女様と別行動になっていた。私は今年から設けられた身体検査を行うことになっていた。身体検査は身長・体重など基本的な検査で、よっぽどのことがない限り合否に影響はないということにしていた。身体検査は面接の前に行う。私は脈をとる係だった。
実のところ身体検査は口実で、脈を取る際受験生の手首に直接触れることで、受験生の心を読むのが目的だった。これはフィリップ先輩のアイデアだ。
心を読む魔法は、私も聖女様も魔女様かルドルフくん相手しかまだやっていない。その他の人でもやってみる必要があるが、その被験者はちょっと選びにくい。フィリップ先輩によれば、他国からの受験生にスパイ・刺客などがまじり込んでいるかもしれず、その発見に役立つだろうという。ただ、受験生全員の脈を私一人で取るのは不可能だから、中央病院から看護員を何名か呼んでおいてその任に当たらせ、外国からの受験者は私にまわすようにしておいた。
面接の前、昼食は女子大の会議室でとることになっている。昼食メンバーは面接と身体検査の係で、受験生と接触を避けるためである。
午前中聖女庁で仕事をしてから女子大の会議室へ行くと、入口にお弁当が積まれていた。それを一箱もらって室内を見ると、聖女様とヘレン先輩が先に着いていた。
「玲子ちゃーん! こっちこっち」
上機嫌の聖女様の声に呼ばれる。
「は~い」
返事をしてそちらへ歩いていくと、聖女様が自ら立ち上がり、飲み物が置いてある台のところへ行って私にも冷やしたお茶を用意してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言って一口含むと、びっくりするくらい冷たい。
「へへ、フローラがさ、最近魔法冷蔵庫を完成させたらしいのよ」
聖女様が説明してくれた。
「そうなんですか、これでこの夏、楽ですね」
「そうなのよ、いいでしょ」
するとヘレン先輩が横から口を挟む。
「あのさ、あんたの功績じゃないからね、フローラだからね」
「わかってるって、フローラ様様だよ」
「あの、それより身体検査の件ですが」
「あ、そうだよね」
私はフィリップ先輩から言われていたのだ。
万が一受験生に聖女様へ敵意をもつ者がいた場合、親衛隊に連絡することになっていた。心が読める私は、その第一発見者になる確率が高い。その場合の手筈は整っていたのだが、先日来聖女様はその受験生も面接すると言い張っていたのだ。
「玲子ちゃん、任務だからね、そういう気持ちを持つ受験者がいたら打ち合わせ通り連絡してね。だけど私は面接はするよ」
周りの親衛隊の人達がざわめく。
「みんな、ありがとう。気持ちはわかる。だけど私達は防衛戦とはいえ、戦争をしたんだ。あっちの国の人からしたら私は間違いなく大悪人。その懐に飛び込む勇気のある人に、私は会ってみたい」
「ですが、聖女様」
親衛隊のレギーナさんがこわい顔をしている。
「レギーナ、大丈夫、事前に玲子ちゃんが知らせてくれていたら、ちゃんと防御魔法貼るから」
私は責任重大で、せっかくのお弁当の味はわからなかった。
身体検査が始まった。身長を測り、体重を測る。女子大受験者は身分が高い人が多いから服のサイズを測った経験はみなあるようだが、身長、ましては体重など測ったことのある人は殆どいない。だから意外と時間がかかった。
一通りの計測が終わった人は、最後に脈を取る。もちろん脈を取るのはそのフリをするだけで、私は受験者の心を読む。
「テスト、できなかった。面接で挽回しなきゃ」
「面接担当、だれかな、聖女様だったらいいのだけれど」
「何聞かれるかな」
受験者は皆、不安でいっぱいだった。
「なんとしてもアン聖女にあわなきゃ」
一人だけ強い強い意志をもつ受験者がいた。強い意志というより、敵意である。
私はその受験者のカードをみると、先の戦争の相手国、ヴァルトラント出身のアナベルという名だった。特技は剣技とある。背が低くガッチリした体つき、よく日焼けした顔は、農民出身のようにも見える。
私は身体検査をしている部屋に控えている騎士のマルティナに目配せした。
脈を取るふりを続け、アナベルの思考を読み続ける。
「アン聖女のせいで、父さんは死んだ」
「村長は、ヴァルトラントを追い返したアン聖女はにせ聖女だと言った」
「ノルトラントから帰ってきた騎士たちはアン聖女を悪くは言わない」
「私はアン聖女の本性を見抜かなければならない」
思考を読む限り殺意はないようだが、警戒しておくに越したことはないだろう。私は次の受験生をまたせ、アナベルの思考を箇条書きにしてメモし、マルティナに渡した。
私は心配だったが、そのあとはひたすら身体検査に追われ、その受験生がどうなったかはわからなかった。




