第74話 恐妻家たち
謁見の間に移動する際、ステファン殿下は聖女様をエスコートするべく聖女様の手をとった。私はそれに続き、先輩たちがあとに続く。さすがに子どもたちは謁見の必要はないので、王宮内の自室にもどることになった。
まほちゃんがすっと近寄ってきて、小声で、
「がんばってね」
と言ってくれた。みほちゃん、あかねちゃんも手を振ってくれ、私も手を振り返した。
謁見の間に入る。いつもならステファン先輩と聖女様は王族側であとから入ってくるのだが今日は報告する側だから先に入り、陛下を待つ。
程なくして陛下御夫妻と王太子御夫妻が謁見の間に入っていらした。
「皆のもの、面をあげよ」
さらに号令がかかる。
「聖女アン、森の魔女のもとでの修行の結果を述べよ」
「はい、当初の目的であった光魔法を始め、火魔法・風魔法・水魔法の習得に成功しました。これはサッポロのレイコも同様です」
「そうであるか、その他になにかあるか」
「いえ、細かいことは、後ほど報告させていただきます」
「うむ、それで研究には役立てそうか」
「はい、習得した魔法をレイコとともに磨き上げれば、研究の進捗が大幅に捗ると確信しております」
「それはよかった、では今後も励むように」
「は、ありがとうございます」
ここでステファン先輩が口を挟んだ。
「陛下、アンはステラに早急に会いたがっております。陛下もご一緒にどうでしょうか」
「うむ」
殿下は珍しく素早く言葉を継ぐ。
「ぜひに、と、アンも希望しております」
「わかった、すぐに行く。そなたらは先に行っていてくれ」
「は、ありがとうございます、陛下」
正式な報告は以上だった。しかしステラ姫のところで本当の報告がなされることは陛下もわかっていただけただろう。
陛下達王室の方々が退出され、私達も謁見の間を出てステラ姫の部屋へと向かった。
私としては久しぶりのステラ姫に会うのが楽しみであった。ステラ姫に会うのはあくまで口実ではあるのだけれど、陛下に魔女様のところで習得した心を読む魔法についてはどうせ聖女様が報告するだろう。私としてはそれを肯定すれば良いだけで、気楽に思えた。
かつて毎日来ていたステラ姫の部屋は窓から初夏の光が入り込み、なおかつ気持ち良い風も吹いている。ちょうどステラ姫は起きていて、ベッドにつかまり立ちしているところだった。まほちゃんたちは先に来ていて、口々にステラ姫を応援していた。
「ステラ~!」
聖女様は小走りでステラ姫のところに行った。
ほんの少し時間がたって、国王陛下御夫妻、王太子殿下御夫妻がやってきた。
「アン、もうステラを独占しているのか?」
聖女様がステラ姫を膝の上に乗っけているのをみて、ヴェローニカ様が呆れたように言った。
「久しぶりなので……」
「まあそうか、ステラも居心地がいいようだな」
優しくヴェローニカ様は笑った。
「さてアン、詳しい話を聞かせてもらおうか」
「はい、陛下。その前に結界魔法を許可していただけますか」
「うむ、もちろんだ。フローラ」
「はい、陛下」
フローラ先輩は両手を組んで、結界魔法を展開した。
聖女様は私をじっと見てから陛下の方を向いて、ゆっくりと話し始めた。
「陛下、先程お話した魔法を習得したのは事実ですが、あと、私と玲子ちゃ、いえ、玲子は人の心を読む魔法を習得しました」
「うむ、例えば今、アンは私の心が読めるのか?」
「いえ、心を読む相手に直接触れなければ読めません」
「そ、そうか」
陛下はほっとしたように言った。
それから聖女様は、この能力にについて詳しく語った。
「それで姉上は、この能力を使う際はレイコを通して使えと言うんだな」
「そうです、私の心の弱さをご指摘です」
「うむ、弱さと言うより正直さだろう、そして我が国の機密についてもアンは知りすぎているしな」
「そうですね」
「とにかくこの魔法については、安易に使うわけにはいかないな」
「そう思います」
「うむ」
国王陛下は腕を組んで、何事か考え始めた。
少ししたところでフィリップ先輩が発言した。
「陛下、発言していいでしょうか」
「うむ」
「聖女様と玲子ちゃんの魔法について、基本的には機密とすべきだと思いますが、逆に知らせるべき範囲をはっきりさせたほうがいいと思います」
「それもそうだな」
続いてステファン先輩が話し始めた。
「まず、アンの身近なスタッフとして、聖女庁のトップには知らせるべきでしょう。聖女の仕事として、この魔法を使うこともあるでしょうから」
「具体的には?」
「ジャンヌとマリアンヌでしょう。当面はそれだけにしておいたほうがいいかと思います」
「よいのか?」
「聖女の通常業務としてこの魔法を使うのは、機密保持の観点から時期尚早と言うより危険でしょう」
「そうだな」
「次にマティアス武官長には知らせるべきでしょう」
「各騎士団については?」
「聖女庁と同じ理由で、団長・副団長に限るべきかと」
「うむ、しかし例えば他国のスパイなどを捕まえた時、それだとアンの能力が使えないのではないか?」
「そうですが」
ステファン殿下は口ごもり、フィリップ先輩が横から口を出した。
「陛下、それについては、聖女様の拷問を取り調べ方法として正式に承認すればいいかと思います」
聖女様はちょっと怖い顔でフィリップ先輩を睨んだ。
「そうか、それがよかろう。しかしステファン、国益のためだ、アンの樹に沿わぬこともそなたから言えるようにならないといかんぞ」
陛下のお言葉は、なにか楽しそうだ。するとなんとステファン先輩は、
「陛下、母上もいらっしゃいますが、大丈夫ですか?」
など言った。もちろん半分笑いを含んでいる。
「うむ、そなたも言うようになったな。もちろんそれは、王室男子共通の努力目標であるな」
どうやら王妃殿下も、プライベートでは結構怖いようだ。その王妃殿下は、
「陛下、おふざけになっている場合ではないですよ」
と仰り、陛下は「怖い怖い」とおしゃった。そして、
「ミハエル、ずっと黙っておるな」
とおっしゃった。
「はい、この手の話題に関しては、私は一切意見を言わないことにしております」
ヴェローニカ様は、横目でミハエル殿下をにらんだ。




