第73話 謁見の前に
魔女の森から帰還した聖女様と私は国王陛下への報告のため王宮に来た。その正門に迎えに出ていたステファン殿下に聖女様は抱きつき、どうも泣いてしまっているらしい。それを利用して聖女様と私達は陛下に謁見する前に別室で、ちょっと休憩をとることになった。
連れてこられた部屋は会議室で、20人くらいが入るとちょうどいいくらいの広さだった。聖女様は殿下にしがみついていて、殿下は聖女様の腰に手をまわして支えていた。その姿は私達が入り込みようがなく、誰が言うこともなく私達は部屋を出て二人をそっとしておこうとした。
その様子に気づいたのか、殿下の声がした。
「みんな部屋に居てほしい、アンがそう言っている」
ヘレン先輩が小さい声で、
「いいの? 二人で居たほうがよくない?」
と言う。聖女様は殿下の胸に顔をうずめたまま、首をふる。
「みんな、座ってよ」
殿下が言うと、みんな手近な席に腰掛けようとした。
「玲子ちゃん」
聖女様が弱々しい声で呼びかけてきた。
「私の横に居て」
「はい」
確かに私が聖女様と一緒に魔女様のところにいたわけで、発言が求められることもあるだろう。
さらにフィリップ先輩、ケネス先輩、マルス先輩もやってきて、それぞれのパートナーの隣に着席した。
「フローラ、結界をはってくれるかな」
聖女様がわりとしっかりとした声で言った。
私は考えてしまう。聖女様は、唐沢杏さんは、愛に生きる人である。学問への情熱も、理性的なふるまいも、嘘偽りを嫌い、不正を嫌う人柄もすべて愛に基づいている。仲間を愛し、民衆を愛している。いや、人間を愛している。その愛の焦点にステファン先輩というか、修二先輩がいる。
凸レンズを通った平行光線は焦点に集まる。そして再び拡散して行く。ある意味聖女様の愛は修二先輩に集まり、そこから周りに広がっていくのだ。聖女様がご自身の気持ちを、愛を説明するとしたら、そのように言うような気がした。
だから今、重大な秘密を殿下に伝える時、同時に仲間たちにも伝えたいのだ。
フローラ先輩が結界魔法をはったところで、聖女様が話を始めた。これでこれからの話しは、王宮の盗聴システムでもわからない。
「異世界組が勢揃いしたわね」
そう言われればそうである。
「それでね、魔女様のところで身につけたことについて、みんなに話すわ」
そこで聖女様は私の方を見た。
「玲子ちゃん、ごめんね。私全部話しちゃうわ」
「いえ、私もそうするべきだと思います。私はヘレン先輩に言いました」
「ありがと」
それから聖女様は私達が身につけた魔法について、包み隠さず語った。
しばらく全員言葉を失っていた。
最初に発言したのは、意外にもまほちゃんだった。
「杏ちゃん、人の心を読むって、つらいことだよね」
「うん、そうかもね」
「つらいときは、私達と遊んで。きっと楽になるよ」
それに答えたのは殿下だった。
「うん、そうだね、僕も一緒に遊びに行っていいかな」
「うん!」
みほちゃん、あかねちゃんも嬉しそうだ。さらにまほちゃんが言う。
「れいこちゃん」
「はい」
「今のお話だと、れいこちゃんは今よりもっとたいへんになる。だけどわたしたちは大丈夫。今までれいこちゃんにいっぱい支えてもらってきたけど、これからはわたしたちもれいこちゃんの力になりたい。そうだよね、みほ、あかねちゃん」
「「うん!」」
フィリップ先輩が口を開く。
「ステファン」
「おう」
「しっかりしないと、聖女様子どもたちにとられるぞ」
「それは嫌だな」
場が和んだがフィリップ先輩が話を続ける。
「このことについて、陛下はすでにご存知なんだろう?」
ヘレン先輩が答える。
「うん、魔女様が陛下に報告しているらしい」
「そうか、あとはこの事実の公表範囲だな」
フローラ先輩が発言する。
「すでにご存知に陛下御夫妻と今のメンバーに加えて、王太子御夫妻、聖女庁幹部、聖騎士団幹部くらいかな?」
マルス先輩は、
「あと武官長、各騎士団長クラスも必要じゃないですか?」
と言う。議論の末、結局陛下にご相談させていただく、ということになった。そして締めくくるようにステファン殿下が言った。
「とにかくこれから謁見だけど、報告はごく簡単に、形式的なものだけにしよう。陛下にはあとで僕から説明するから」
「いいの? ステファン」
「うん、どう考えても保安上、陛下に詳細を伝えるのは極秘裏で行わなければ君が危ない。手間はかかるが、必要なことだ」
「わかった、ステファン、任せる」
いよいよ謁見の間に移動する時間が来た。みんな立ち上がったところで、聖女様が言った。
「玲子ちゃん」
「はい」
「あなたが必要だと思ったタイミングで、ヤニックさんに伝えて」
「え、いいんですか」
周りの人達は難しい顔をしている。
「いい、あなた達の間に、変な壁をつくっちゃいけない」
ネリス先輩が、
「よいのか? 陛下に断ってからのほうが」
と言ってくれたのだが聖女様は、
「順番的にはそうだけど、なにがなんでも陛下には了承していただく。いざとなったら聖女の権限を使ってでもこのことは通す」
と言い切った。
「とにかく私は、玲子ちゃんを信じる。玲子ちゃんが選んだヤニックさんを、私は無条件に信じる」
強く言い切る聖女様を見て、みんな納得したように頷いた。
私は感謝しかなく、涙をこらえた。聖女様の泣き虫が私にも移ったのかもしれない。




