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第69話 特訓

 それから私と聖女様は、火魔法・水魔法・風魔法、そして心を読む魔法をひたすら訓練した。習得の効率を上げるため、私と聖女様は別々の魔法を訓練する。そして習得後手を繋いで魔法を共有する。


 光魔法について、訓練していなかったわけではない。ただ、魔女様の知る光魔法は、多くの人ができる明かりのための魔法に加え、強大な閃光を発する魔法くらいしかなかった。面白いのは明かりの魔法で、手元でなく、200エリスのくらいまで距離で発光させることもできた。さらには発光させたまま光を移動させることもできた。それを見た聖女様は、

「これは騎士団で使える」

と評し、くりかえし練習していた。


 私としては、光魔法については言いたいことがあった。

「聖女様、ここに来た本来の目的は……」

 聖女様は私の言葉を遮り、

「わかってる。レーザーでしょ。だけど魔女様はレーザーの概念を知らない。今はここで吸収できるものを最大限吸収して、レーザーはもどってからにしよ」

と言った。

「それもそうですね。女子大ですかね」

「う~ん、軍事利用もできるからね……」

「それも含めて、向こうで考えるしかなさそうですね」

「うん、勝手に決めたらまた、ヘレンに叱られるわ」

「ははは……」


 そうして5日間があっという間に過ぎた。私は今、魔女様と聖女様、そしてルドルフくんとこの家での最後の夕食を前にしていた。聖女様はいつもの食事前のお祈りをしたあと、魔女様に話しかけた。

「魔女様、お世話になりました」

「ははは、大聖女様に恩が売れたのだ、安いものだ。それより食べよう」

「大聖女様はやめてください。アンで結構です」

「何を言うか、戦争の勝利、女子大の設立と若くして大きな仕事をしてきた聖女様がさらに魔法の力を向上させたのだ。これからも大活躍間違いない」

「活躍だなんて、私は平穏に学問を究めたいだけです」

「それだけじゃないだろう、ステファンともよろしくやっていくのだろう」

「は、はい」

 聖女様は顔を赤らめ、口をつぐんだ。きっと殿下に猛烈に会いたくなってきたのだろう。


 今夜もメインディッシュはルドルフくんの捕まえてきた鳥である。香草がアクセントになっていておいしい。感謝をこめてルドルフくんを見ると、にっこりと笑っている。魔女様は私や聖女様に目を配りつつ、食事を口に運んでいる。

 

 昨日までのこの食卓は、ただ単にエネルギーを補給するための場でしかなかった。食事が美味しくないというわけではないけれど、昼間の訓練に疲れ果て、食べるのがやっとという感じだった。

 今日は何故食事を楽しむ余力があるのかと言うと、午後少し魔法の訓練をしたところろで魔女様が訓練を打ち切ったのだ。まだまだ訓練がしたいという聖女様に、魔女様はこう言った。

「ここまでくれば魔法の訓練は、二人で力を合わせればどこでもできる。明日は帰らなければならないから、支度もあるだろう。時間が余ったら、少しはこの森の様子も楽しむといい」


 そういうわけで午後は帰り支度をして、余った時間はのんびり近所を散歩したりして過ごした。やるだけやり切ったという充実感もあり、いつの間にか慣れ親しんだこの景色も、なにか優しい風景に思えた。


 食事を終え、お茶を飲む。なんとなくお茶を淹れるのは私が係のようになっていた。

「レイコの入れてくれた茶を飲むのもこれが最後か」

「そんな魔女様、ぜひまた来させてください」

「それはかまわんのだが、おそらくそんな暇、当分ないぞ」

「そうですかね」

「聖女様の手伝いもあるし、レイコの私的な生活も充実させねばならん」

「私的な生活ですか?」

「そうだよ、いつまでも王宮とか騎士団とか、そんなとこに住んでいないで家庭を持て。相手はすでにいるのだろう」

「ご存知なのですか」

「知らぬはずがなかろう」

 急に顔が赤くなる。

「それはともかく、私が死んだら、この家はレイコにやろう」

「そ、そんな」

「安心せよ、私もそう簡単には死なん。レイコが私くらいの年になったらでいいのだよ」

「はい」

「玲子ちゃん」

 聖女様が口を挟んできた。

「魔法使いになれたね」

「え?」

「森の魔女様があとを託すんだもん、もう、魔法使いを名乗ってもいいんじゃない? どうですか、魔女様」

「うむ、二人共すでに実力は並の魔法使いを超えているだろう。あとは経験だな」

 それを聞いて私よりも聖女様のほうが喜んでいるような気がした。魔女様も同じように感じたようで、

「アン、お前は聖女の仕事がある。魔法の方はレイコに任せたらよかろう」

と言った。

「ふたりで力を合わせていくのだ。いや、ちがうな」

「何が違うのですか?」

「アンにはすでに仲間がいる。有名な話だ。レイコもこれで、聖女様の仲間の立派な一員だよ」

「はい、ありがとうございます」


 その夜私はなかなか眠れなかった。


 この世界に来て、私はなんとなくだが魔法使いになりたかった。せっかく?来た異世界だ。魔法を習得しない手はないだろう。ただ聖女様たちは元の世界とブレることなく、物理の研究に邁進している。私は後輩だからその活動に引きずり込まれていたが、その過程でやっぱり魔法の必要性を感じていた。だからこの国で最高と言われる森の魔女様のもとでの修行は大変ありがたい話だった。

 国王陛下のお話では魔女様は気難しいということだったが、この滞在中、私は特にそう思ったことはなかった。ただ単に修行に厳しいだけだとも言えるし、ときとしてメチャクチャな要求もなかったわけではないが、それもまた、魔女様の照れ隠しのように思えた。


 魔女の森での経験、これから待っている王都での仕事、まほちゃんたち、そしてヤニックさん。いろいろなことを考えてしまい、気がついたら窓から見える夜空の黒が少し薄くなっていた。

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