第68話 共有
それからの毎日は、朝ランニング、午前農作業、午後心を読む魔法の練習というのが日課となった。ランニングについては私も聖女様も身体強化魔法がうまく行くようになり、魔女様から合格点をもらえた。午前の農作業は、実は火魔法の訓練をかねていた。
まず、畑と森の境界付近に行く。私と聖女様はそれぞれ、焚き火程度の火魔法を使うよう指示されるのだが、毎度毎度爆発となる。そうすると森の木が何本か吹っ飛ぶ。のこった根に魔女様が火をつけ、開墾の準備が整う。そこからは肉体労働で、小石をとりのぞき地面を掘り起こして畑になるように土を耕す。数日したところで魔女様は、
「広さはこれくらいでいい。すでに木のないところで火魔法を使おう」
と言い、私と聖女様は耕しかけの畑の上で爆発を起こし、土をさらに掘り起こすのだ。
聖女様は、
「焚き火程度のイメージでこうなのだから、全力でやったらどうなるのかしら」
などと言い、魔女様は、
「やめろ、本当にやめろ」
とめずらしく動揺していた。
とりあえず先に私が行い、予定通りの爆発である。ある意味いい感じに掘り起こせた。
続けて聖女様が行う。
すると、小さな焚き火程度の火がおきた。あきれたような魔女様の声が飛ぶ。
「おい、アン、ちゃんと指示通り、焚き火をイメージして火を起こせ!」
見ると聖女様は驚愕の表情だ。
「あ、あの、私、本当に焚き火のイメージで……」
「嘘をつけ、レイコ!」
「は、はい」
「アンと手をつなげ!」
魔女様の指示により私は聖女様の手を取り、聖女様の心を読んでみた。
『ど、どうしよ。できちゃった。焚き火、できちゃった』
聖女様は自身の成功に驚いていた。ということで魔女様に報告する。
「魔女様、聖女様は嘘をついていません。火魔法に成功したようです」
「そうか、ではアン、ろうそくの火くらいの火を起こしてみろ」
「は、はい」
すると目の前の地面にあった木切れに、ほんの小さな火がおきた。
「あ、あれ」
うまく行って一番おどろいているのは聖女様だった。
しばらく魔女様は黙っていたが、やがて口をひらいた。
「うむ、とりあえず成功したのは良いことだ。アン、今日の農作業は中止して、火魔法の特訓をするぞ。レイコ、お前もだ」
「「はい」」
それから日が暮れるまで、私と聖女様は火魔法を交互にやった。聖女様は指示通りの火をおこし、私はその度爆発だった。流石に落ち込む。
疲れ果ててトボトボと畑の横を歩き、家に帰る。
家ではルドルフくんが待っていた。
「おかえりなさい、ママ、やったね」
「うん、なんだかわからないけど、できた。ルドルフはどうしてたの?」
「今日も狩りだよ。今日の夕食、野鳥の肉だけど、きっとおいしいよ」
「そうだね、ありがとう」
「うん」
「れいこちゃん、お疲れだね」
私はルドルフくんに労われてしまった。
「ルドルフくんこそお疲れ」
「れいこちゃん、進歩してるよ」
「え」
意外だった。ずっと私は爆発だらけだった。
「あのね、爆発、少しずつだけど小さくなってる。何日かでうまくいくようになるよ。ね、魔女様」
「うむ、その通り。諦める必要はない」
「そ、そうですか」
「ここが頑張りどころだ」
「はい、がんばります」
翌日も朝はランニングだった。そして午前はやはり畑の端に行って火魔法の練習をする。
「まずはアン、やってみなさい」
「はい」
聖女様は焚き火大の火を起こした。
「うむ、いい感じだ。アン、レイコの手をとれ」
「はい」
聖女様は言われるまま、私の手を取る。
聖女様の思考が流れ込んでくる。
『玲子ちゃん、がんばれ』
暖かい心が流れ込んでくる。
『はい、がんばります』
そして聖女様のイメージする火魔法が私にも伝わってくる。
私のイメージと何が違うのかわからない。わからないが何かが違う。違うがそのイメージを心にコピーした。
「手を離せ」
魔女様の指示で聖女様が私の手を離す。
「レイコ、火魔法を」
「はい」
目を閉じ、先ほどコピーしたイメージを思い浮かべる。そして強く念じる。爆発は起きなかった。
「レイコ、目を開けなさい」
魔女様の声がした。
目を開けると、眼の前に思い浮かべた通りの火ができていた。
抱きしめられた。
聖女様だった。
聖女様は「よかったよかった」と言いながら泣いていた。体を密着させていたから、聖女様の心はどんどん私に流れ込んできた。
やさしい、あたたかい心で、私は幸せになった。
「アン、そのままの姿勢で、心を閉じなさい」
「は、はい」
急に聖女様の心が離れていった。体はまだくっついているのだが、もう彼女の心はここにない。
「どういうことかわかるか? アン」
「いえ、わかりません」
「アンとレイコは、心を共有することで、魔法も共有することができるようになったのだ。この力はおそらく、アンの仕事に役立つだろう」
「はい」
「これから5日間、魔法の特訓をする。そして6日後、王都に帰るのだ」
「「はい」」




