第67話 訓練
ランニングを通した身体強化魔法の訓練の途中、私と聖女様はお互いの心を手をつなぐことで読めるようになっていた。昼食のため家に戻った際、聖女様は魔女様に報告した。
「あのですね、玲子ちゃんと手をつないだら、玲子ちゃんの考えがわかるようになりました」
「ほう」
「玲子ちゃんの方でも、私の考えがわかるようです」
「ふむ」
「で、試しにルドルフ手をつないでみたら、ルドルフの考えもわかり、私の考えもルドルフに伝わりました」
「そうか、じゃあ私を手を繋いでみてくれ」
魔女様は手を伸ばし、それに聖女様が手をつないだ。ふたりとも目をつむっている。
ややあって、魔女様は聖女様の手を話した。一息ついて、
「ではレイコ、今度はあんただ」
「はい」
手をとられた。目をつむると、魔女様の思考が流れ込んできた。
『レイコはどこから来た』
故郷の小樽を考えてしまう。なつかしい父の顔、母の顔。
『レイコや聖女様の知識はどこで得た』
大学のことも考えてしまう。
私のこころから、魔女様の思考がいなくなった。
目をあけると、魔女様が私を見つめていた。
すこしして、魔女様が言った。
「ふたりとも、異世界人だったのだね」
それに対し聖女様は、
「そうなのですが、国家機密なので口外なさらないようお願いします」
と言ったのだが魔女様は、
「わかっている。まあ、話す相手もいないがな」
と応じた。
そしてもう一呼吸置いて、
「二人共、相手の思考を読む能力は強力だ。だからしっかり訓練を積む必要がある。特にアン」
「はい」
「あんたは正直すぎる。相手の気持ちに寄り添いすぎるし悪意には大きく傷つくだろう。だからこの力は最終手段として用いることにし、普段は秘匿しておいたほうがいいだろう」
「はい」
「だからレイコ」
「はい」
「まずはあんたが聖女様の目として耳として、この力を使えばいいだろう。陛下には手紙を書くよ」
「はい」
「いずれにせよ。特訓だ。相手の思考を読むと同時に、自分の思考を読まれない訓練をせねばならん。当分念力の訓練は中止だ」
「はい」
「アン」
「まあがんばるんだな」
「どうして私だけに、そう仰るのですか」
「あんたは魔法など使わなくても、思考が丸わかりだからな」
「はあ……」
昼食をとり、午後からは心を読む、そして心を読まれないトレーニングになった。
「目を閉じ、私の手をとりなさい」
私は魔女様に言われるまま、魔女様の手をとった。するとまず、私の顔が見える。
「今のレイコは、手を触れてしまえば相手の心を読めると同時にレイコの考えも相手に伝わってしまう」
「はい」
「最初は、自分の考えを読まれないようにする訓練だ」
魔女様がそう言った瞬間、私の顔が見えなくなった。
「私の心を探ってみなさい」
そう言われても、なにをどうすればいいのかわからない。しかたなく繋がれている手のひらに意識を集中する。
すると魔女様の手のひらの少し向こうに、なにか壁のようなものが感じられた。
「それだ。それが私の心をレイコに対して閉ざしているのだ」
ふたたび私の顔が見えた。眉間にしわがよっている。
「今度はレイコがやってみなさい」
手のひらの内側に壁のようなものをつくる。
「そうだ、そうするのだ」
魔女様は褒めてくれたが、その壁の外側がなにかチクチクする。
「私がレイコのこころを探っているのだ」
やがてチクチクはどんどん痛くなり、壁が壊れてしまった。
どっと魔女様の思考が流れ込んでくる。
『もっと壁をしっかりとつくらないと』
『はい』
そのあとは私が壁をつくり、魔女様がそれを壊す、その繰り返しとなった。
「レイコ、今日はこれくらいにしよう」
「ありがとうございました」
いつの間にか、私の息は荒くなっていた。
「今度はアンの番だ。レイコは見ていなさい」
「はい」
魔女様は聖女様の前に座り、私のときと同じように手をとって聖女様の訓練を始めた。
聖女様は目を閉じている。
すこしすると眉間にシワが寄り、苦しい表情を浮かべる。
戦争のことでも思い出しているのだろうか。
そうかと思えば突然喜びに満ちた顔になる。
間違いなく殿下のことを考えている。
しばらくしたら何か真剣に考える表情へと変化した。
物理だろう。
「ふう」
魔女様は聖女様の手を離し、息を吐いた。
しばらく黙っていたが、諦めたように言った。
「アンは自分の考えを隠すのが下手すぎだ。レイコ、どう思う」
「はあ、下手というか隠す気がないと言うか、お顔をみているだけでも何をお考えか、かなりわかります」
「まあそう言う正直なところがアンの良いところだが、当面この魔法は使えないだろう」
聖女様は不満そうである。
「レイコ、アンが公務としてこの魔法を使う時、相手とアンの間にレイコが入るのだ。そうすればアンの考えは相手に伝わらず、必要な情報は得られるようになるだろう」
「はい、承知しました」
「いずれにせよ、二人ともまだまだ訓練が必要だな」




