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第65話 スパルタ

 朝食前のランニングで、私は足が速くなる魔法を成功させていた。それを朝食で魔女様に報告すると、

「そうか、では今日の午前はその魔法の習得に時間を使えば良い。アンは念力だな」

「「はい」」

「ルドルフ、今日はレイコにつきあってやってくれ。私はアンにつきあうよ」

 聖女様は私にうらめしそうな視線を送ってきた。


 そういうわけで午前はずっとランニングである。ルドルフくんが前に立ち、どんどん走っていくのを追いかける。なおルドルフくんは子どもの姿である。恐ろしく速いしペースが落ちない。私は嫌でも魔法の力を使わないと全くついていけなかった。


 1時間位走っただろうか。一旦休憩となった。

「玲子ちゃん、いい感じだよ」

「ハアハアハアハアハア」

 相槌ではない。息が切れて声が出ない。

「ちょっとまっててね」

「ハアハアハアハアハア」

 ルドルフくんは魔女様の家に行った。


 息が整ってくると、日差しが熱いのが気になってきた。暑いのでなく熱いのだ。そして今日は風がなく、気温が上がってきてきているのがわかった。汗が止まらない。 そんなことを考えているとルドルフくんが戻ってきた。水筒と桃のような果物をもっている。

「食べなよ」

「ありがとう」

 まず水筒の水を飲むと、若干の塩味がする。

「塩、いれてくれたの?」

「うん、ママが入れろって言ってた」

 ありがたいことである。

 桃の方はよく熟れていて、ナイフがなくとも皮が剥けた。2つあったので、最初に剥いた方をルドルフくんにあげる。

「いただきま~す」

 ルドルフくんは早速かぶりついた。私ももう一つ剥いて、かじると酸っぱくて甘い。

「おいしいね」

「うん!」

 ルドルフくんは私と違い、とにかく元気だ。


「一休みしたら、またがんばるよ」

 ルドルフくんに話しかけると、

「うん、かなり進歩していると思う。今はつかれているから全身を強化するように魔法を使っているけれど、今度はスピードに集中すると良いと思うよ」

「そうなの?」

 全身強化しているとは思っていなかった。

「今は無意識でやっているから、それを意識すると進歩するよ」

「わかった」


 休息を終えて立ち上がると、ルドルフくんが言った。

「まずは一周、魔法なしに普通に走ってみよう。それでもとから持っている体の能力がわかるよ」

「なるほど」

「で、2周目は、スピードに集中してみて」

「了解」


 言われた通り、一周目は魔法なしに普通に走ってみる。休憩したはずが、早くも息が上がってくる。休憩前のランニングで走り続けられたのは、ひとえに魔法のおかげだと認識できた。

 グルっと回ってスタート地点にもどったときに、ルドルフくんが右手を上げた。魔法を使えという合図である。

 軽く頷き、自分が速くなるように足に意識を集中してみる。


 一歩一歩、足のうらをしっかりと返し、その度に加速するイメージを頭に描く。


 すると明らかに景色の流れが速くなり、耳元に風の音がビューっとし始めた。自転車で飛ばしているときのような景色の流れ方である。


 あっという間にスタート地点にもどると、ルドルフくんが両手を前に出し、私に止まるように指示してきた。ルドルフくんの前で止まると、

「うまくいってるね」

と褒めてくれた。

「玲子ちゃん、魔法のコントロールがここでの大きな目的だから、スピードを1週ごとに変えてみよう、次は今の半分の速さにしてみようか」

「はい」

「僕が後ろから走って、指示を出すから」


 早速走り出すと、

「玲子ちゃん、早すぎ、もう少し遅く」

と言われる。足の裏にこめる魔法を少し少なくする。

「今度は遅すぎ、ほとんど魔法効いてない」

 もう少しだけ魔法を増やしてみると、

「うん、速すぎ、もうちょっとだけ抑えて」

と更に指示された。


 そのまま昼食まで、ルドルフくんの指示を受けながらひたすらランニングを続けた。ルドルフくんの指示は厳しく、なかなかスパルタである。


 昼食のため家に戻ると、聖女様がテーブルに突っ伏していた。テーブル上には豆がいっぱい転がっている。聖女様は念力の発動に昨日成功したのだが、今日はあまり進歩していないことが伺われる。


「アンは魔力切れだ。少し休ませている。レイコは食事の用意を手伝ってくれ」

 ということで野菜を洗い、サラダを作る。魔女様も肉を焼いている。そうしていたら聖女様が、

「いいにおい~」

といいながらフラフラと現れた。


 聖女様は昼食自体はゆっくりと食べたのだが、午後は寝込んでしまった。私は聖女様のかわりというわけではないが、豆を動かすトレーニングをした。


 全くうまくいかなかった。

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