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第64話 最初の成功

 念力など使ったことがない。さらに言えば使っているところを見たこともない。

「聖女様、念力って、どうやって使うんですか?」

「知らない。見たこともない」

 聖女様も私も、念力に関しては似たようなものだった。

「とにかくやるしかない、頑張ろう」

と聖女様が力強く言うので、

「はい、頑張りましょう」

と、私も気合を入れた。


 一つの豆粒を前にして、私はそれをじっと見つめる。心のなかで、動け~動け~と念じてみる。ピクリとも動かない。


 頭の心が疲れてきた。

「ふう」

 一息ついて、もう一度気合を入れようと思う。横にいる聖女様はと見ると、腕を組み、目を瞑って何事か考えている。

「聖女様、4つの力との関係とか、考えてるんじゃないですよね」

「へ? なぜわかる?」


 結構呆れた。


 4つの力とは、この世に存在する根本的な4つの力である。具体的には、重力、電磁力、このあたりは普通に暮らしていても身近な力である。残り2つはいわゆる強い力と弱い力である。強い力はクォーク同士とか、原子核内で陽子と中性子を結びつけたりしている。弱い力は、たとえば中性子がベータ崩壊して陽子と電子に別れたりするような反応に関する力である。


「考えているのは、強い力ですよね」

「う、うん」

「どうせ漸近的自由性がこの世界ではちがうのではとかなんか、考えているんじゃないですか」

「う、うん、よくわかるね。ま、あたりまえか」


 聖女様が言う当たり前と言うのは、重力は「万有引力」とも言う通り、全ての物にも働いてしまうから念力で特定のものだけ動かすのは無理である。電磁力も似た部分があるから論外、弱い力は中性子が片っ端からベータ崩壊してしまい、別の物質に変わってしまうのでだめである。

 強い力は、その名の通りものすごく強い力なのであるが、ごく短距離にしか働かない。ここがなんとかなればとか、聖女様は考えたに違いない。

 私は練習に集中してもらうため、聖女様を挑発することにした。

「聖女様はやっぱり、理論屋なんですね」

「?」

「私はほら、実験屋ですから理屈はともかく、まず実際にやってみることを考えます」

 聖女様は、本当は実験物理をやりたかったことはよく知っているから、こういう言葉には強く反応するだろう。

「なにそれ玲子ちゃん、私が集中してないって、言いたいのね」

「そこまでは言ってませんけど」

「ま、いいわ、向こうへ帰ったら、絶対実験やってやる」

 あとでヘレン先輩に報告しておこう。


 それから真っ暗になるまで一生懸命やってみたが、私も聖女様も念力を発動させることはまったくできなかった。


 夕食はルドルフくんが狩ってきた野鳥を焼いたものだった。

「ルドルフくんは、あんまり食べないんだね」

 珍しくルドルフくんは食欲があまりないようだった。

「ははは、玲子ちゃん、森でけっこう食べてきちゃったから」

 やっぱりルドルフくんはドラゴンだった。


 翌朝は朝食前にランニング、食事作りを手伝わされ、洗濯もやり、掃除もしてやっと魔法の練習だ。それが4日ほど続いた。

「聖女様、なんか楽しそうですね」

 朝の掃除の最中に、私は聖女様に聞いてみた。

「あ、わかる? 玲子ちゃん」

 上機嫌である。

「あのさ、魔女様にこうしてこき使われてるとさ、修行って感じするじゃん」

 聖女様は呑気だった。

「聖女様、真剣さ、たんないんじゃないですか?」

「そう? 状況を楽しんでるだけよ。ベストは尽くしてるわ」

「そうですか」


 聖女様が真剣だった証拠に、その日の夕方、聖女様は豆を一粒動かすことに成功した。私はまだ無理だった。


 翌朝目覚めると、魔女様がまだ寝床にいる私と聖女様を見下ろすようにしていた。

「あんたたち、とっとと起きな。うまくいきかけている今が、一番大事なときだ」

「「は~い」」


 ランニングしながら考えた。

 魔女様はうまくいきかけていると言った。聖女様は1個だけだけど念力に成功した。私はまだだが、もう少しでうまく行けるのかもしれない。だからあきらめずにやり続けないといけない。例えば今走っているのだって、念力で地面を蹴っ飛ばせば早く走れるようになるのではなかろうか。身体強化みたいなもんである。

「玲子ちゃん、走るの速い。ちょっと待って」

 後ろから大声で呼び止められた。


 私は走るのをやめて、聖女様が追いついてくるのを待った。

「はあはあ、玲子ちゃん、足、こんな速かったんだ。昨日まで、ゆっくり走ってたんだね」

「いえ、聖女様、私いつも通りですけど。聖女様、お疲れが溜まってるんじゃないですか」

「あのね、私、一応騎士団長よ。この程度で走れなくなるほどヤワじゃない」

「そうですか」

「もしかしてさ、玲子ちゃん、足早くなる魔法、成功したんじゃない」

「あ」

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