第62話 昼食
幅が狭く急な階段をあがると廊下の奥にドアの開いた部屋が見えた。さっそくそこへ荷物を運び込む。
部屋にはベッドが二つ入っていて、それだけでぎゅうぎゅうである。シャルロッテ様に言われた通り、普段着に着替える。もちろん靴も室内履きに履き替える。このままでは家中を泥だらけにしてしまう。
聖女様はなんと、聖女の略装に着替えていた。
「聖女様、それじゃありません」
「へ?」
「儀式とかお仕事じゃないですから」
「そ、そうか、なんかこれ、私にとっては普段着みたいなもんなんだよね」
「じゃあ聖女様は普段着で仕事してるんですか」
「あは、そうかもね」
着替え終わった聖女様は部屋をくるっとみまわし、
「ベッドは二つか」
と言った。そして、
「ルドルフは私と寝ればいいか」
とうれしそうにつぶやいた。
階下に降りると魔女様は、
「じゃあ昼にしよう。用意するから手伝っとくれ」
と私に言った。
「私は、テーブルを片付けますね」
と聖女様が言い、
「ああ、たのむよ」
と魔女様が応じた。
台所は大人二人が入ればいっぱいである。魔女様は一つの戸を開いて野菜を出した。
「サラダにする。洗って適当に刻んでくれ」
「はい」
「冷たい野菜を見ても驚かないのだな」
「あ」
魔女様は冷蔵庫に驚かない私をじっと見つめ、そして眼をそらした。
「私は肉を焼くよ」
魔女様は炉に魔法で点火し、フライパンを載せた。
4人分のサラダを用意していると、いい匂いがしてきた。フライパンには肉が4枚、何の肉かはわからない。魔女様はパッと香草を放り込み、さらに香りが良くなった。
「安心しな、イノシシの肉だよ。魔物じゃない」
「はい」
そう言われれば、豚肉のようにも見えてきた。
サラダの皿をお盆にのせてテーブルの方に行くと、聖女様の手によりテーブルクロスが広げられ、ルドルフくんがカトラリーを並べているところだった。
「おいしそうね」
「はい、イノシシの肉を焼いています」
「楽しみだね」
「はい」
ルドルフくんもニコニコしている。
「レイコ!」
台所から呼ばれた。
「は~い」
と返事すると、
「これを持っていってくれ」
と、たくさんのビスケットが入ったカゴを持たされた。
「パンを焼くのが面倒でね」
と、魔女様が言い訳をした。
テーブルに肉、サラダ、ビスケット、それに水という簡素な食事が並べられた。
「アン、お祈りをしてくれ」
「はい」
聖女様がお祈りをし、食事が始まった。
私はビスケットをどう食べればよいかわからず、とりあえず自分で作ったサラダを食べる。横目でみていると聖女様はパンを食べるように普通にビスケットをかじっている。
「ああレイコちゃんは食事にビスケット食べたこと無いのね。パンと違ってね、ビスケットは日持ちがするのよ。だから騎士団の演習とか遠征ではよく食べられているのよ」
すると魔女様は立ち上がり、棚から一つの瓶を持ってきた。
「口にあわなければジャムをぬるといい。ルドルフ、試してみな」
「はい、魔女様」
ルドルフくんは真剣な顔で瓶を開け、慎重にビスケットにジャムをぬっている。そして口にいれたら、
「おいしい! ありがと!」
と満面の笑顔になった。
食事が半分ほどすすんだころ、魔女様が言った。
「食後はまず、あんたらの魔法の実力をみせてもらおうか」
「「「はい、おねがいします」」」
私達3人、揃って返事したが魔女様はさらに言った。
「ルドルフ、お前はいい。お前は充分に実力をもっているから、教えることなど無い。あえて言えば、一緒に研究してほしいくらいだ」
「そうなの?」
「うむ」
ルドルフくんはうれしいような、悲しいような、微妙な表情になっていた。魔女様が言葉を継ぐ。
「この二人は仕事があるし、王都からここまでは遠い。しかしお前は飛んで来ればすぐだ。二人のここでの修行が終わったら、いつでも遊びに来なさい」
「うん、来る!!」
食事がおわりお茶をいただいたあと、魔女様の指示で外に出た。家の裏に回ると薪割り場があり、少し広くなっている。また午前にこの家に到着したときには気づかなかったが、畑がひろがっていてさっき食べたような野菜が実っている。
おそらくこのあと魔法の練習ということになるのだろうが、この畑に被害があったらどうしようかと、本気で心配になった。




