第6話 お昼寝
聖女様がこの世界でたった十七の年齢で立派にその役割を果たしていることに驚くとともに、私はまたその本質が札幌時代と全くかわっていないことにも驚いていた。そのこともまた、私達が異世界に来たことが本当であることを示している。夢なんかじゃない。
現実を受け入れようとしている間に食堂には人が集まりだした。帯剣している男女、文官らしい男性、女官、メイド服の人たち、また下働きなのだろうか、質素な服装な人たちもいる。
帯剣した女性の一人が小声で聖女様に告げた。私を尋問した人である。
「警備中の者以外は全員あつまりました」
「ありがとう、レギーナ」
聖女様はすっと立ち上がり、
「玲子ちゃん、まほちゃん、みほちゃん、あかねちゃん、あなた達をここの人たちに紹介したいの。いい人たちだから、きっとみんなの力になってくれると思う」
と私達を招いた。
集合した人たちの前に立ち、聖女様が話を始めた。
「みなさん、この4人は遠くの国から来ました。魔法の力でこの離宮に来てしまったのです。私達やルドルフと縁の深い人達ですから他国からの間者ではなく、この人たちに見せてはいけないもの、知られてはいけないものはありません。ですからこの人たちを私達の家族として扱ってもらえると助かります。では紹介します。まず、サッポロのレイコさんです」
私は就活のために勉強したお辞儀で、皆さんに挨拶した。ここでは名前を出身地をつけて呼ぶらしい。続いて、子どもたち3人も紹介された。3人ともおずおずとお辞儀している。私がしっかりしないといけない。
それから離宮の主な人を紹介されたが聖女様は、
「たくさんいるから、ちょっとずつおぼえてくれればいいから」
と言ってくれた。
ほっと一息つこうと思ったところで、まほちゃんが言ってきた。
「あのレイコさん、あかねちゃんとみほですけど、お昼寝してないのでつかれてるんです」
「そっか、わかった。聞いてみる」
私は聖女様に言ってみた。
「あの聖女様、まほちゃんとあかねちゃん、お昼寝させてあげたいんですけど」
「あ、ごめん、気づかなかった。ネリー!」
聖女様はネリーさんにお昼寝の準備をたのんだ。
しばらくしてネリーさんがもどってきてお昼寝の用意ができたことを伝えた。聖女様は、
「みんな、お昼寝に行きましょう。玲子ちゃん、一緒に来てくれる?」
「はい」
食堂を出て階段を上がる。食堂のある1階の床は大理石貼りであったが、2階は落ち着いた青の絨毯がひかれていた。その廊下をネリーさん、聖女様について子どもたちが歩き、私は最後尾についた。ただ、甲冑の女性騎士も4人ほど同行している。絨毯のせいで足音は響かないが、甲冑のガシャガシャという音が響く。
「こちらになります」
ネリーさんがある部屋のドアを開けた。
室内は西洋のお城の一室と言った感じの調度品で満たされていた。絵が飾られ花も行けられている。大きさは小学校の教室の半分くらい、食事が取れるくらいのテーブルセットもあり、ソファとローテーブルもある。ただベッドはない。
「寝室はこちらです」
私の疑問を見抜いたのかネリーさんは室内の扉を開いた。そこはまさしくベッドルームで、ベッドが4つ入れられていた。それぞれのベッドに色違いのドラゴンのぬいぐるみがひとつずつ置いてある。それを見た聖女様が言う。
「ネリー、ぬいぐるみ用意してくれたのね。ありがとう」
「はい、少しでもお慰みになればと思いまして」
「みんな、好きなぬいぐるみを選んでね」
「わーい」
みほちゃんが黄色、あかねちゃんがピンクのを選んだ。服の色に合わしたのだろう。まほちゃんは青いドラゴンを選んだので、私はのこった赤いドラゴンを手に取った。手に温かみが伝わってくる。
みほちゃんとあかねちゃんは一つのベッドに一緒に入った。ぬいぐるみだけでは心配がおさまらないのだろう。まほちゃんはそんな二人を心配そうに見ている。両手でドラゴンをしっかり抱いている姿は、自身の不安と戦いながら妹たちを守ろうとする強い気持ちを感じさせた。
私の視線に気づいたのか、まほちゃんは私に聞いた。
「玲子さんは寝ないのですか」
「うん、大丈夫、まほちゃんは?」
「私も眠くないです」
すると聖女様が、
「ベランダに出ない? 気持ちいいよ」
と誘ってくれた。
ベランダに出るとサマーベッドが並べられており、私達は聖女様にうながされてそこに座った。メイドさんがすっとやってきて、小さなお菓子が添えられた温かいお茶が横のテーブルに置かれる。聖女様は、
「お菓子はみほちゃん、あかねちゃんの分もあるから、遠慮しないで食べてね」
食べ物の恨みを気にする聖女様に、思わず笑いが出てしまった。
すると聖女様は、
「玲子ちゃん、やっと笑ってくれた。ごめんね。私達にまきこんじゃって、本当にごめんね」
と言って涙を流し始めた。