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第59話 魔女の森への旅(2日め)

 早朝にヴァルトアインガングを発つ。魔女様の住居に一番近い宿泊可能な場所はエーデンバッハという村でヴァルトアインガングからたっぷり1日かかるということだ。昨日の反省を踏まえ、馬車には大量の食料が持ち込まれた。それを見て私は聖女様に聞いてみた。

「あの、今日のルドルフくんはこれでいいとして、魔女様のところは一泊や二泊じゃないですよね」

「あ、うん、それについてはルドルフ自身に解決してもらう」

「どういうことですか?」

 ルドルフくんが自ら答えてくれた。

「僕が森の生き物を狩ればなんとかなるよ」

「そうですか」

としか言いようがなかった。


 ヴァルトアンガングから森に入る。街道はそれなりに広い。馬車がすれ違えるくらいの幅がある。

「このあたりは魔物はでないそうです」

 今日馬車に同乗しているカロリーナさんが説明してくれた。

「このあとハーゲンという村までは道も広く、魔物もまずでないそうです」

 ということはハーゲンから先は魔物と遭遇する可能性があるということだ。

「玲子ちゃん大丈夫だよ」

 私の考えを読んでルドルフくんが話をつづけた。

「ふつうの魔物はママを見ると逃げるし、強い魔物でもぼくがいることがわかったら、まあ間違いなく逃げるね」

「そうですか」

 これまたそうとしか答えようがない。

「そうね、まったく魔物の気配がないわ」

 聖女様が周辺をさぐったようだ。

 私には普通の森にしか見えない。


 ハーゲンにはあっさりと着いた。

「ここでしっかりと手足、伸ばしておこう」

 聖女様はそう言って馬車から降りた。カロリーナさんが警護としてあわててついて行く。


 今回の旅はいわばお忍びだ。聖女様はいつもの略装でなく私服である。護衛の騎士団の人々も見慣れた白の甲冑でなく、傭兵が使うような灰色の甲冑である。しかも人数も最小限である。あとでかろニーナさんに聞いたのだが、聖女様の顔を知らなければ、どこかの貴族の娘のたびにしか見えない。そうであれば盗賊のいい目標になりかねない。

「まあ聖女様をねらうとか誘拐とかしたら、この国のすべての軍隊が犯人を追いかけますけどね」

 逮捕前に命はなくなること間違いなさそうな雰囲気だ。


 とにかくハーゲンで馬に水を与え、手入れをする。聖女様は馬一頭一頭に話しかけ、様子を見ている。馬たちは聖女様が大好きなようで、顔をこすりつけたりしている。

「これから先、エーデンバッハまで集落はありません。休憩できるところがあればしますが、魔物の動向によってはほとんど休息なくエーデンバッハまで行くことになるかもしれません。レイコさんはしっかり休息をとっておいてください」

 カロリーナさんがそう言ってくれる。聖女様がテキパキと働いているからあまり休むのも気が引けるが、確かに私は軍人でもないし旅慣れてもいない。だから素直に休息をとらせてもらう。

 ベンチに腰掛け足をぶらぶらさせたり、立ち上がって体操の真似事をしてみたりする。とにかく体の血の巡りを良くしておこうと思った。


「出発準備~!」

 号令がかかり、騎士たちがキビキビと動く。私はじゃまにならないよう、さっさと馬車に乗り込んだ。聖女様も乗ったのだが、入口から顔をだしてキョロキョロしている。聖女様は騎士団長でもあるから騎士たちの動きが気になるのだろう。そこにカロリーナさんがやってきて言った。

「聖女様、指揮はこちらでやりますから、馬車に乗ってください」

 聖女様は口を尖らして、馬車内にひっこんだ。


 馬車が走り始めた。ぐいっと向きが変わり、森の木々がまどのすぐ外に近づく。聖女様が指示を出す。

「カロリーナ、あなたは左、ルドルフは右の警戒をお願い。私は全周警戒をする」

「承知しました」

 カロリーナさんとルドルフくんの目つきは鋭い。逆に聖女様は宙を見つめるようにしている。魔力を探知しようとしているのだ。

 非戦闘員の私はやることがなく、景色を眺めるだけである。

 

「いる。10時の方向、200マルス」

 聖女様が呟く。カロリーナさんは馬車から首を出し、

「10時の方向、200マルス、警戒!」

と叫んだ。

 私の体が固くなる。


 しばらくしてまた、聖女様が呟いた。

「逃げた、警戒解除」

 カロリーナさんが、

「解除~!」

と号令する。


 そんなことが何回か繰り返される。昼食は小川のほとりで馬車を止めてとったが、馬車から降りることは許されなかった。窓から見ると騎士たちの一部は騎乗のまま、一部は立ったまま食べている。


 午後も4回ほど魔物が現れたがいずれも逃げていった。

 

 そしてかなり疲れてきた頃、エーデンバッハに到着した。

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