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第54話 お出かけ

 シュヴァルバルトへの出発の2日前、王宮内の会議室でヤニックさんが私を待っていてくれた。ヤニックさんが迎えてくれたが国王陛下ご夫妻、王太子殿下ご夫妻もいらっしゃるので、私はすぐにヤニックさんから離れ、皆さんに挨拶した。

「あら、私達のことは気にしないでいいのよ。わたしたちはこれで失礼するわ、ね、陛下」

「うむ、明日も含め、ゆっくりとするといい」

「はい、ありがとうございます」

 王族の方々はさっさと会議室を後にし、会議室には私とヤニックさん、そしてマリカさんだけが残った。マリカさんは部屋のすみにある茶道具でお茶とお菓子を用意し、私達のところに置いていってくれた。そして本人は会議室の隅に座って、自分のお茶をすすり始めた。聞いていないから話をしろ、という意味だろう。


「いよいよですね」

 ヤニックさんが話し始めた。

「はい、やっとこのときが来ました」

「そうですよね、レイコさんは魔法使いになりたいと仰ってましたもんね」

「ええ、やっと本格的な修行ができそうです」

「いい修行になるといいですね」

「はい」

 しばらくするとヘルガさんがやってきた。

「今夜のお食事ですが、ヤニックさんと、あとまほさんたちだけでおとりになるよう、王太子殿下が仰っています」

「はい、ありがとうございます」

「ではご案内いたします」


 案内されたのは私達の寝室に隣接する、王太子御夫妻とは別に食事を摂るときに使う部屋だった。入室するとまほちゃん、みほちゃん、あかねちゃんがすでに待っていて、ヤニックさんの顔を見ると立ち上がって駆け寄った。子どもたち3人に囲まれて、ヤニックさんも嬉しそうだ。

 すぐに食事が用意されたので、着席した。


「ヤニックさん、最近は何の絵を描いてるの?」

「ヤニックさん、春になって動物が来るようになった?」

 子どもたちが食事しながらヤニックさんを質問攻めしている。笑って答えるヤニックさんを眺めているのは楽しかった。


 食事が終わると、ヤニックさんはすぐに帰ることになった。残念に思っていると、

「レイコさん、明日のご予定は?」

「ええ、基本的にはのんびりするつもりです」

「旅の準備は?」

「もう、大丈夫です」

「では、久しぶりにモデル、やっていただけないでしょうか」

「いいのですか?」

「ええ、私は魔法使いになる前のレイコさん、魔法使いになったあとのレイコさん、どちらも描いてみたいのです」

「では、喜んで」

 本心だった。


 翌朝目覚め朝食をとり私室にもどると、ヘルガさんに入浴させられた。「昨夜入ったのに」と言うと、「デートですから」と押し切られた。

 浴槽につかるとあらためて今日ヤニックさんと過ごす時間を意識してしまい、急に心臓の鼓動が早くなってきた。のぼせてしまう気がして、いつもより早めにお風呂からあがった。

 浴室からでるとヘルガさんが待ち構えていて、今日の服を選ばされる。見たことがない服が混ざっていて驚いていると、

「ヘレンさんがお持ちになりました」

と教えてくれた。その中で薄い青のワンピースが目に止まり、それを選んだ。さらに入念にメイクされた。入念にメイクされた割には化粧は濃くなく、むしろナチュラルにしあがり、私にはできないなと思う。


 昨日ヤニックさんと約束したのは、馬車で聖騎士団の近くの森にある小さな池に行くことだった。そのあたりは魔物も出ないとのことだ。ヘルガさんに送り出され、今日の警護のマリカさんと王宮使用人用の廊下を歩く。顔見知りの人たちはニッコリしたり、私をみてちょっとびっくりしたような顔をしたりしている。

「皆レイコ殿の美しさに目を奪われているのですよ」

などとマリカさんに言われ、うれしいような恥ずかしいような気持ちになる。


 使用人出入り口の車寄せでヤニックさんと待ち合わせだ。外に出るとすでにヤニックさんが来て待っていた。

「おはようございます、ヤニックさん。お待たせしました」

「おはようございます。私の絵のために、おしゃれしていただいたんですね。ありがとうございます」

 これは違う。絵のためにではなく、ヤニックさんに見て欲しいのだ。でもそれを口にする度胸はない。

「お天気、よかったですね」

「ええ、この天気ならレイコさんの衣装がよく映えそうです」

 そんな会話をしていたら迎えの馬車が来た。

 馬車にヤニックさんの絵画道具、私の方で用意してもらった昼食や飲み物を積み込んで出発する。


 馬車にヤニックさんと向かい合って座る。私の隣には今日の護衛のマリカさんがいるが、邪魔をしないようにと思っているのだろう、心做しか小さくなって座っている気がする。

 ヤニックさんの微笑み、そして馬車の外の青空。明日からの旅も楽しみだが、まずは今日を楽しみたい。

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