第51話 陛下のお話
「レイコ様、すぐにお越しいただけますでしょうか。陛下がお呼びです」
午前の女学校での授業を終えると、宮廷からの使者が私を待っていた。ミハエル殿下から今日は国王陛下からお話があると言われていたので驚きはしなかったが少々慌てた。今日の午後は女子大で軸受の開発に参加の予定だったので遅刻するかもしれない。それを連絡しようにもスマホも何も無いこの世界では如何ともしがたかった。
「レイコさん、連絡はすでにネリスさんに伝わっていますから」
使者の女官からそう告げられ、安心する。
王宮へ向かう。自分の住む場所でもあるがやはり広い。陛下のお呼びであるから謁見の間かとも思ったが、実際は小さな会議室に通された。
会議室では聖女様が先に到着していて、笑顔で挨拶を交わす。顔見知りの親衛隊の騎士二名が警護のため壁際に立っている。聖女様の横の席に座っていると、まず近衛騎士団の騎士が二名入室、つづいて国王陛下が入室された。
慌てて立って挨拶するが、陛下は笑顔で椅子をすすめた。
「ふたりとも、忙しい中すまない」
「いえ、とんでもないです陛下」
聖女様が代表して返事した。私も軽く頭を下げる。
「それで今日の話だが、姉上から返事が来た」
「はい」
「それで結論から言えば、夏のはじめ頃ならば来ても良いと言ってきた」
「そうですか、ありがとうございます陛下」
聖女様はホッとしたように言った。
「ただ、姉上は二つ条件をつけてきた」
「はい」
「一つは、来てよいのは聖女アン、そなたと、レイコ殿の二人だけだ」
「それはまたなぜでしょうか、陛下」
「よくわからない。黒髪の者にしか会わないと言ってきた」
「はあ、まあわかりました、、、陛下」
聖女様は、付け足すように「陛下」をつけた。陛下はそれを聞いてかお笑いになり、言葉を続けた。
「そしてだ、これが重要なのだが、ルドルフに会わせろとのことだ」
「承知しました、陛下」
「それに関しては、あっさりと受け入れるのだな」
「受け入れると言うより、おそらく逆らっても無駄かと」
「ルドルフが姉上の実験に使われるとは考えないのか、アン」
「陛下、それはないかと」
「ほう」
「はい、『会いたい』と仰っているということは、ただ単に会いたいとお考えかと、陛下」
「うむ、わかった。ではあとの交渉は聖女アン、そなたが直接やってくれ、あとで連絡方法などは伝える」
「承知いたしました、ありがとうございます、陛下」
「うむ、うまくいくと良いな」
陛下との会合はそれで終わった。
私と聖女様は陛下との会合のあと、聖騎士団の食堂で遅い昼食を摂った。
「玲子ちゃん、私さっきは陛下のお話受けちゃったけど、玲子ちゃん大丈夫?」
「ええ、私はいかようにもなりますが、聖女様のスケジュールのほうが大変なんじゃないですか」
「そ、そうよね」
どうも聖女様は、今までそっち方面について何も考えていなかったようだ。
「ま、なんとかなるでしょう」
そう口にしているが、視線が泳いでいる。これはヘレン先輩かフローラ先輩に叱られることを想像しているに違いない。
「私これから女子大で軸受の開発ですが、ヘレン先輩も来ると思います。ヘレン先輩には私から言っておきますか?」
「あ、うん、おねがい」
女子大の一角の実験場に顔を出すと、いつものネリス先輩、マルス先輩に加え、やっぱりヘレン先輩が作業をしていた。今日は先日熱入れした軸受を今一度石でできた型にはめ、精度が狂っていないかチェックしていた。つぎつぎとはめている。ときどきだめではねられた軸受がでているのだが、それをマルス先輩が光に透かしたりしてどうだめなのか調べていた。
「これヤスリで削ったら使えないすかねぇ」
マルス先輩の問に、ネリス先輩が答える。
「使えないことは無いと思う」
ヘレン先輩は、
「熱が入ったりしないの?」
と聞くが、ネリス先輩は、
「グラインダーだとまずいが、手でやるなら大丈夫じゃ」
と答えている。私はこの会話は、聖女様に聞かれたらまずいと思った。
「ネリス先輩、グラインダーって単語、聖女様に聞かれないようにしないと危ないですよ」
「あ、玲子ちゃん、来ておったか。で、グラインダー?」
「遅くなりました。グラインダー、聖女様に知られたら作れって言われますよ」
「そ、そうじゃな」
「よし、グラインダー秘密のうちに作ろう」
ヘレン先輩が言い出した。するとマルス先輩は、
「え、それ、大変じゃないですか」
と言う。ヘレン先輩は、
「大変だけどいずれ必要になる。聖女様に気づかれる前に作っちゃおう」
と笑っている。これは聖女様を出し抜こうという魂胆だろう。
マルス先輩もネリス先輩も嬉しそうに笑い出した。
「そうだ玲子ちゃん、陛下のお話、なんだったの?」
ヘレン先輩が思い出して聞いてきた。
「あ、はい。森の魔女様の話です」
「で、どうだって?」
「森の魔女様は、聖女様と私、あとルドルフとだけ会うそうです。夏前に来いということでした」
「夏前?」
「はい」
「で、聖女様は?」
「完全に行く気でした」
「まずい」
ヘレン先輩が慌てだした。




