第50話 雪後の青空
コロッケが持ち込まれたものの、まほちゃんたちはもうお眠で翌朝に食べてもらうことにした。会議室には国王御夫妻、王太子御夫妻、聖女様達8人、それに私が入った。どう考えてもコロッケを食べる会ではない。
「うむ、これはうまいものだな」
陛下がひとくち食べ、感想を述べられた。
「そうなんです、ですが玲子ちゃんは教えてくれなかったんです」
聖女様はなんと陛下の前で私を非難した。王女殿下が、
「聖女様、そんなにお怒りにならなくても」
と言ってくれた。さらにヴェローニカ様も、
「アン、そのとおりだよ。逆にアンがステファン殿下とこれを食べたとして、レイコ殿に教えてあげたか? 殿下のことで頭がいっぱいであったであろう」
と仰る。フローラ先輩は、
「そうよ、むしろまほちゃんたちに買っていってあげただけ、あんたよりましよ」
ととどめを刺した。
聖女様は方方から文句を言われたにも関わらず、拗ねたりしなかった。
「陛下、今宵はですね、ちょっとお聞きしたいことが」
「うむ、なんであろう」
陛下はコロッケを手にしたままだった。
「光魔法の使い手、ご存じないでしょうか、陛下」
「光魔法か」
陛下はすぐにはお答えにならなかった。
ややあって陛下はお話を始めた。
「我が国では今、魔法使いと名乗るものは数多いるが、光魔法の使い手となるとほぼいない」
「ほぼ、ですか、陛下」
「うむ、いることはいるのだが、隠遁しておる」
「もしかして、森の魔女様のことでしょうか」
「ああ、そうとも呼ばれているな」
「私達の調べでは、シュバルツバルトにいらっしゃることまではわかったのですが、それ以上はわかりませんでした」
「うむ、そうであろうな」
「陛下はやはり、ご存知なのですね」
「うむ」
「ご紹介いただけないでしょうか」
「聖女アンのことだ、私利私欲でなく、学問やこの国の発展のために必要なのであろうな」
「はい」
聖女様の声はちょっと小さかった。
「はは、そうか、聖女アンにとっては学問は私利私欲のうちか」
「申し訳ありません」
「いや、結果として国のためになるのだろう」
「はいおそらく、陛下」
「うむ、居場所は教えよう、紹介状も書こう、しかし姉上は会ってくれるだろうか」
「お姉様なのですか」
「ああそうなのだ。しかし、王族ではない」
なにか複雑な事情がありそうだ。
「姉上は、一度帝国のさる公爵家に嫁いだのだ。ただ、嫁ぎ先の公爵家と折り合いが悪く、さらに公爵殿が早逝されたのだ」
「はあ」
「それでノルトラントにもどってきたのだ。まあ出戻りだ」
「はあ」
「それで王室としても体裁が悪く、本人も気軽な生活をのぞんだこともあって、表向きは亡くなったことにしたのだ」
「なるほど、で、ステファンは知ってたの?」
「いや、僕も叔母上は亡くなったと思ってた」
「そうなんだ」
そこで会話は途切れ、しばらく誰も発言しなかった。
少ししたところで、国王陛下が話を続けた。
「アン、とにかく私から一度手紙を書く。しばらく待ってくれ」
「ありがとうございます」
その話はしばらく蒸し返されることがなく、気がついたら雪の日が少なくなってきた。今朝起きて窓の外をみると真っ青な空だった。昨日まで降っていた雪が宮廷の中庭を真っ白に覆い、そこに朝日が差し込んで輝いていた。久しぶりに見る青空に小鳥の飛んでいるのが見える。春が近い。
朝食はいつものように王太子御夫妻、ステラ様と同席する。もちろんまほちゃん、みほちゃん、あかねちゃんも一緒である。ヴェローニカ様の横にステラ様の席が用意され、今朝もあれこれとヴェローニカ様があれこれと面倒を見ている姿が美しい。
話題は自然と今朝の天気だった。
「ステラ、あとでヴェランダに出てみよう。気持ちいいぞ」
「ヴェローニカ、天気は良くとも寒いぞ。窓からでよいのではないか」
「殿下、このヴェローニカの子です。このくらいの寒気、問題ありません。なあ、レイコ殿」
急に振られて焦った。
「は、はあ、まあ大丈夫かと」
「ほら、殿下、レイコ殿が言うのです。問題ありません」
「そうか、私も行こう」
気がついたらステラ様の安全について、責任ができてしまった。
「私も行きた~い」
あかねちゃんが言うのでヴェローニカ様は、
「うむ、一緒に行こう、楽しそうだ」
とおっしゃった。
ヴェランダに出ると、やはり空気はとんでもなく冷たい。しかし陽光のお陰で暖かい。
「ほらステラ、きれいだろう」
「ウア、ウア」
とりあえず大丈夫そうで良かった。
景色を眺めていると、ミハエル殿下が仰った。
「そう言えばレイコ殿、多分今日、陛下からお話があるぞ」
「はあ、なんの話でしょうか」
「うむ、魔法のことらしいが、私は良くは知らないんだ」
「はい」
「まあその心づもりでいたらいいだろう」
「ありがとうございます」




