第5話 17才
私たちはネリーさんの案内で、最初に尋問された部屋に戻された。聖女様たちとは別行動になり、少し不安になる。だがネリーさんやその他の女官たちは優しく私達に接してくれた。夏物のワンピースとか、ブラウスとかスカートとかを何色か見せてくれた。私は白の襟付きのブラウスに濃いグリーンのスカートを選んだ。なぜかウェストも丈もぴったりである。履物はサンダルを用意してくれた。女の子たち3人は花柄のワンピース、まほちゃんはブルー、みほちゃんはイエロー、あかねかちゃんはピンクでとても似合っているし、サイズもいい感じだ。3人共気に入っているようで表情が柔らかい。
着替え終わったところでネリーさんは、
「それでは聖女様や殿下が食堂でお待ちです」
と私達を食堂へと導いてくれた。
食堂の奥の大きなテーブルで、聖女様たちはお茶を飲みながら会話していた。私達の姿を見ると聖女様は立ち上がり、かけよりながら言った。
「みんな、似合ってるわ。とにかくこっちに座って」
私達が座ると、メイドさんがすっとお茶、さらにはお菓子を置いてくれる。
「あかねちゃん、みほちゃん、あかねちゃん、どうぞ食べて。美味しいよ。玲子ちゃんも遠慮しないでね」
ヘレンさんが言ってくれるのだが、みんな緊張してか手をつけない。私は模範をしめすべくお菓子をひとくち食べ、
「おいしい! みんな食べたほうがいいよ」
と言ってあげたら、やっともぐもぐとしはじめてくれた。
その間に聖女様は、
「ビョルンを呼んでくれるかしら」
と言い、さらにネリーさんにも、
「ネリーはちょっと残ってくれる?」
と指示を出した。
やがて初老の男性がやってきた。ビョルンさんだろう。ネリーさんも着席し、聖女様は話を始めた。
「ビョルン、ネリー、忙しいところにありがとう。あのね、相談したいのはこの4人のことなの」
ビョルンさんとネリーさんがうなずく。
「この人たちは遠くから来た私達の知り合いなの。ルドルフの魔法で呼ばれてしまったのね。だからノルトラントでの生活には慣れていない。だから私達が離宮に滞在中は、いっしょに過ごしてもらおうと思うの。これは8人で話し合った」
お仲間がみんなうなずく。
「それで二人にお願いなんだけど、この4人の受け入れをお願いしたいの。部屋とか」
「具体的にはどうされたいですか」
ネリーさんの問いかけに聖女様は答える。
「私の部屋の近くにしてほしいの。だって不安だろうから。たとえばだけどね、もとの予定だとステファンと私で続きの二部屋でしょ。それ、私はステファンと一緒の部屋でいい。で、もう一つの部屋に4人に入ってもらったらと思うの」
するとネリーさんは言いにくそうに、
「お気持はわかりますが、聖女様、新婚なのですよね」
と告げた。私はその意味を考え、自分の顔が赤くなるのがわかる。さすがにまずいと思い、発言した。
「あの、私達は4人でいれれば大丈夫です。無理して部屋を譲っていただかなくても」
「ありがとう玲子ちゃん、でも私としては自分のことよりあなたたちのことが心配で」
「あのですね、教育的にですね、子どもには刺激が強いと言うか」
聖女様はちょっと口ごもり、顔をちょっと赤らめて返事した。
「わ、わかった、ネリー、いい部屋をおねがいします。私達の部屋から適度に近ければそれでいいわ」
「承知しました」
「ビョルン、ネリーと相談して、必要なものを用意していただけるかしら。予算としては私の予算を使ってくれていいから」
「はい、そのときは相談させていただきます」
「いえ、ビョルン、あなたの判断に任せます。事後報告でかまいません」
「ありがとうございます、では、ネリーさん、参りましょう」
「ごめんなさい、その前に4人をここの人たちに紹介したいわ。手空きの人を集めてくれないかしら。お仕事中申し訳ないのだけれど」
「かしこまりました。集まりましたらお呼びしますので、ここでお待ちいただけますか」
「お願いいたします」
聖女様とビョルンさん、ネリーさんのやり取りを見ながら、私は杏さんがこの国では本当の聖女様になっていることを実感していた。女官として優秀かつえらいにちがいないネリーさんにテキパキと指示しつつ必要に応じて助言を得ている。ビョルンさんも事務方の偉い人のはずだが、彼も聖女様にとても敬意をはらっているのがわかる。男女の騎士たちもそうだ。
ただおどろくのはそれだけではない。聖女様とお仲間たちが皆若いのだ。十代にしか見えない。
「どうかした?」
考えている私に聖女様が問いかけてきた。
「あ、いや、本当に聖女様なんだなって思っちゃって」
「そうなのよ。笑えるでしょう」
「いや、笑えませんけど。あと、若返ってませんか?」
「そうなのよ、私まだ、十七なんだ」
「え」
「うん、十七」
「まじですか」
「うん、マジ」
動揺した。いくら異世界とはいえ十七歳で聖女かつ騎士団長、そして王子様と新婚である。唐沢杏さんは札幌国立大学でも学問もプライベートも目立っていて、ある意味憧れの存在であった。あんなふうに一直線にかつ自由によく生きられるものだと思っていた。その杏さんがこの世界では国の命運を左右しかねかねない重職につき、それでも札幌で見た杏さんの本質は微塵もゆらいでいない。
私はとにかくその事実を受け止めようとしていた。