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第49話 レーザーとコロッケ

 春が近づいてきた。毎日のように雪が降るのは変わらず、積雪はどんどん増えている。雪国のノルトラントでは、深い積雪は春までの日数が減ってきていることを示すのだ。そして日が長くなってきていることも春が近いことを告げている。聖女様たちとの雑談の中でも、春が近いということが話題に多くなってきていた。


 冬の間、いつの間にか私は石工ギルド担当みたいになっていた。定盤の開発において石工ギルド側が量産化のために納期が遅れるという話になったとき、私がその開発に関する契約について見直しを言い出したことが石工ギルド側の心証をとてもよくしていた。ギルドでは一辺が2分の1ネリス(地球で言う60センチくらい)の定盤の量産化に成功していて、在庫が積み上がっていた。聖女様の指示により、定盤は女子大、聖女庁はもとより聖騎士団を始めとして各騎士団の工房に出荷されている。それぞれの場所に複数納入済みなのだが、さらに生産するよう聖女長からギルドに指示が出ているのだ。いずれいろいろな工房で利用されるようになるだろうという読みである。ただ、工房側としてはまだ売れない在庫を抱えることになるので、在庫分はすべて聖女庁が買い上げている。将来、買い上げたのと同じ値段でギルドに売り戻す予定だ。つまり帳簿上在庫を聖女庁がもつだけなので、そのままギルド内に在庫の定盤を置いている。


 石工ギルドではギルド長の工房で定盤づくりの教育を行っていて、私はそれに立ち会うことも多い。そこにやってくる職人さんたちはベテランが多いのだが、話題はより大きな定盤を作る技術だ。現状は2分の1エリスサイズが限界で、それ以上となるとうまく行っていない。理由は単純で、直線を出すために石の定規を使っているのだが、1ネリスの長さともなるとたわみが無視できない。たわみが無視できるほどの強度をもたせると重くなりすぎ、作業効率が極端にさがってしまうのだ。

「レイコさん、定規をたわませて、たわんだ分を削ればいいのではないですか?」

 ある職人さんが言った。

「そうなんですが、そのたわんだ量を測定するのが難しいのです」

「そうですか、床からの高さで測ればよくないですか」

「それは床が完全に水平かつ平面であることが保証されているならば可能ですが」

「それができれば、我々は苦労していないわけですね」

「そうなんです」


 このときの話はそれで終わったが、私は考え続けていた。レーザー光みたいなものがあれば、この話は楽になる。


 太陽の光とか炎の光は、物体が持つ温度による光だ。いろいろな色が混ざり合っている。温度により色ごとの光の強さが違いはするので、そのせいで温度が低ければ赤っぽく、温度が高ければ白っぽくなる。いずれにせよこういう光は白色光と呼ばれ、その色合いの違いは色温度と言われる。

 ただこういう光は散乱されたりで広がりやすい。


 LEDなどの光は、基本的に一色の光でできている。物質内の電子はその物質ごとにいくつかの特定のエネルギーしか持てない。その電子がエネルギーを失う時、特定の色の光を放出する。

 レーザーではその光を2枚の鏡の間を往復させ、光の波の頭をそろえる。そうするととても直進性が強いあのレーザー光ができる。


 レーザー光のもとになる単色の光は、ふつう電気的にエネルギーを物質に与えて作る。この世界の現状ではこの方法は不可能だ。


 しかしこの世界には魔法がある。魔法でなら可能かもしれない。


 私はまず、ヘレン先輩に聞いてみた。

「先輩、光魔法って使えますか?」

「玲子ちゃん、突然だね。私は光魔法は明かりをとるくらいしかできないな」

「そうですか。光魔法の専門家っていますかね」

「どうだろ? 女学校の魔法の先生も、光魔法を専門にしている人はあったこと無いな」

「そうですか……」

 正直がっかりしたのでそれ以上言葉がでなかった。

「それでさ玲子ちゃん、なんでまた光魔法?」

「あの、私達今、定盤作ってるじゃないですか。あの面出しにレーザー使えないかと思うんですけど、魔法くらいしか思いつかなくて」

「なるほど……」


 ヘレン先輩はしばらく何事か考えていた。

 そして口を開いた。

「これは相当大事な話だね、みんなと打ち合わせしよう」


 その日の夕食後、聖女様とお仲間たちが急遽王宮を訪れた。正式な訪問ではなく、ご家族ご友人としての訪問である。

「陛下、とてもおいしいものが手に入りましたので、ご一緒したいと」

 聖女様が持ち込んだのは先日ヤニックさんと食べたコロッケであった。

「玲子ちゃん、私、報告受けてない」

 聖女様は恨めしそうに私に言った。確かに私はヤニックさんの食事の内容をいちいち報告はしていなかった。

「まほちゃんから聞いて、私、玲子ちゃんを恨んだわよ」

「はあ、すみません」

 そう言う割に、コロッケは国王御夫妻、ミハエル殿下とヴェローニカ様の王太子御夫妻の分はもちろん、すでに食べた私やミホちゃんたちの分もあった。


 人数が多かったので、コロッケは会議室に持ち込まれた。

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