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第46話 レストランにて

 席につくと、すぐに店員さんがメニュー持ってきた。

「どうしますか?」

 ヤニックさんが問いかけてくるが、どうすればいいかわからない。

「こちらのコースにしましょうか」

 困っている私に、ヤニックさんはおすすめのコースを示してくれた。前菜に季節の野菜の油漬け、メインは川魚の焼き物である。

「ワインも頼みましょう」

「は、はい、少しなら」

「ではグラスワインでいいですね。白ですかね」

「はい、おまかせします」


 馬車でしていた離宮の話を続けているうち、前菜はすぐに来た。ワインも来たので乾杯する。空腹で飲むと酔が回りやすいので気をつける。お店の照明にヤニックさんの眼が光って見える。

 前菜を口に含む。

「どうですか?」

「ええ、おいしいです」

 うそだった。緊張で味がわからない。お店には申し訳ない。せめてもと、

「これ、色合いがきれいですね。食べるのがもったいないくらい」

と言ってみた。緑、赤、黄色、いろいろな野菜を小さめに切ったものが和えられていて綺麗だった。野菜の表面に香草を細かく刻んだものがプツプツとついていてアクセントになっている。白い器のおかげで色がより鮮やかにみえる。

「そうですね、私も毎日色を扱っているわけじゃないですか、その私が見ても美しいです」

 プロに同意してもらえてよかった。ヤニックさんは言葉を繋いだ。

「それにしてもこれには尊敬してしまいます。私は色を残す仕事ですが、こちらはかならず作品がなくなってしまうわけですから」

「そうですね」

「なくなってしまっても食べた人には印象が残る、私の絵も、眼にしていないときでも思い出してもらえるような絵にしたいものです」

「ヤニックさん」

「はい」

「私はいつでも、いただいた絵を思い浮かべることができますよ」

 言ってから私は恥ずかしくなってきた。

「ありがとうございます」


 会話がとぎれてしまった。ついワインに手を伸ばした。


 メインディッシュが来る頃にはすっかり酔いが回ってしまった。

 お魚はおいしい。

 会話も楽しい。

 ヤニックさんの表情も楽しそうである。

 ただ、視界がグラグラする。


「レイコさん、お水にしたほうがいいですよ」

 私が無くなったワインのグラスに手をのばすと、ヤニックさんが注意してくれた。

「私が酔いつぶれちゃったら、ヤニックさんは困りますか」

「はは、護衛の人にレイコさんをお渡しすればいいのですが、聖女様に睨まれるでしょうね」

「それは困りますね」

「そうです、私はまた、というか何回も、レイコさんに会いたいのです」

「それは私も同じです」

「よかった」


 お皿が下げられ、ケーキとお茶が出た。季節のベリーが盛られていて美しい。

「聖女様のおかげで、この国のお菓子は美味しくなったのですよ」

 ヤニックさんはそう言ったが、私は実情を知っていた。半分は本当だが半分はちがう。

「正確には、聖女様とヘレン先輩のおかげです」

「そうですね、ヘレンさんは料理がお上手ですから」

「ええ、ですからフィリップ先輩はそのうち太ると思います」

「はは、でしょうね」


 会話の内容とはちょっとちがい、私は自分とヤニックさんがこの先どうなるか考えていた。私がヤニックさんに料理をつくってあげる未来がくるのだろうか。


 楽しい時間も必ず終りが来る。名残惜しいが席を立つ。


「レイコさん、明日も夕食をご一緒できますか」

「ええ、もちろん」

「言いそびれていましたが、しばらく王都に滞在します。冬場に使う工房の資材の買付に出張できたのです」

「そうですか、それはよかった」

「では、また明日」

「ヤニックさん」

「はい」

「今夜、とっても楽しかったです」

「私もですよ」


 お店を出ると馬車が待っていた。

「私の宿は近いので、歩きます。今夜はありがとうございました」

「こちらこそ楽しかったです」

 つらいが時間だろう。

「ではまた明日」

「はい、また明日」

 馬車から見ると、ヤニックさんが手を振っていた。


「おかえりなさいませ」

 王宮に戻ると、ヘルガさんが待っていてくれた。

「遅い時間になってしまい、ごめんなさいね」

「いえ、お気遣いなく」

「ありがとう」


 お風呂に入って酔いをさます。ゆっくりと体を伸ばし、先程の食事を思い出す。食事は美味しかった。多分。

 多分というのは、食事の最初のうちは緊張してか、味がわからなかったのだ。話しているうちだんだんとリラックスできたのか、メインのお魚はとてもおいしかった。お酒の効果もあったかもしれない。


 眼を閉じると手を振るヤニックさんの姿が浮かんだ。

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