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第38話 晩秋の離宮へ

 新調した服を着た私は、王宮の従業員口で迎えの馬車を待っていた。最初は子どもたちは王宮でお留守番ということだったが、ヴェローニカ様が「晩秋のヴァイスヴァルトを見せてやってくれ」と仰り、まほちゃんみほちゃんあかねちゃんも同行する。ミハエル殿下も賛成してくれた。


 思えばこの一週間は長かった。平日の仕事はいつもどおりあるし、週末の離宮行きの準備もあった。大した持ち物もないのだが、あれを持っていくか、これを持っていくか、それともやめるかかなり悩んだ。まほちゃんたちの防寒着も用意しなければならない。さらには短い時間でヤニックさんへのお土産も用意しなければならなかった。ヤニックさんは芸術家だから、変なものを渡すわけにはいかない。何回も街に買い物に出、悩みに悩んだ末、離宮の冬はとても寒いだろうからと毛糸の手袋を買った。厚手の手袋で、店員さんの話だと風も通さない。脱脂していない毛で作られているから少々の水では濡れてくることもない。手の大きさに不安があったが、小さいと指がつめたくなるからちょっと大きめにした。きれいな紙に包んでいたら、みほちゃんがどこからかきれいなリボンを持ってきてくれた。

 このように多忙を極めていたのに、一日一日が長かった。


 今見上げる空はどんよりと曇り、冬が近づいているのを実感させる。今回の離宮行きの名目は女子大の観測実習だ。このまま夜まで晴れてくれないと困る。今はまだ朝だから、夜までには晴れてほしいと願う。

 

 ほどなくして華麗な馬車がやってきた。真っ白だから聖騎士団の馬車にちがいない。ドアが開いてマルス先輩が降りてきた。ネリス先輩が馬車から顔を出して呼びかけてくる。

「皆のもの、乗ってくれ。聖女様とは王都の外れで合流じゃ」

 子どもたちは大喜びで馬車に乗った。


 ネリス先輩とマルス先輩は子どもたちとよく遊んでくれるので、子どもたちに人気である。馬車の中でもすぐに変顔大会を始めて盛り上がった。私も変顔をやらされるが、今ひとつ盛り上がらない。

「玲子ちゃんは美人なんだから、中途半端にやってもおもしろくないんだよ」

とまほちゃんに言われた。


 王都を出て近郊農業の田園地帯を抜ける頃、青空が広がり始めた。

「これなら星が見れそうね」

 みほちゃんが空を見上げながら言った。


 馬車の走る道を見ると、それなりにスピードが出ているのがわかる。しかし視線を上げると広い視界のせいでゆっくりと進んでいるように見えてしまう。もともと到着は夕暮れ頃と知らされているけれど、馬車のスピードが上がるか時間の進みが早くなるか、どっちでもいいからなんとかなって欲しいと考えてしまう。


 大きな川をわたるところで昼食になった。夏が終わって王都に来るときもここで昼食になった。女子大の学生十五名も加わり、川べりの草地にシートを広げて座る。天気はいいのだけれど風が冷たい。新調した上着のおかげで寒くはない。

 私は会話にも加わらず空を見上げていた。みんな離宮への楽しんでいるのだが、私はそんな気にはなれず、とっとと休憩を切り上げて文字通り一刻も早く離宮に行きたかった。


 膝の上においていた左手が急に暖かくなった。見ると聖女様が手を重ねてくれている。視線は私が見ていた空の上の方を向いている。私の視線に気づいたのか、こちらを向いて優しく微笑んでくれた。聖女様の向こうにはステファン殿下も微笑んでいる。


 この二人は愛情生活ではかなり苦労したと聞いている。

 まず向こうの世界では、唐沢先輩が急に札幌を離れなければならなくなり、そのことがきっかけで結婚はしたものの1年におよぶ別居生活を強いられた。その辺の事情は聞かなくてものぞみ先輩が色々と教えてくれた。

 さらにこっちの世界でも、お互いに存在に気づいてはいたものの、ステファン第二王子が軟禁されたりしたそうだ。その間の心労はいかほどだったのか想像もつかない。

 そんな二人は何も言わず、ただただ私に寄り添ってくれた。


 夕闇が迫ること、やっと離宮にたどり着いた。空はまだ赤いのだが、森に囲まれた離宮への道はすでに暗かった。それを抜けた離宮の車寄せにはズラッと警護の騎士や出迎えのメイドさんたちが並んでいる。当然私の見たい人はいない。


 馬車から降りるとき、聖女様が離宮の女官ペギーさんに何事が伝えているのが見えた。そしてペギーさんはメイドさんの一人に耳打ちし、その人は私のところにやってきた。

「レイコ様、こちらへ」

 言われるままにそのメイドさんについていく。


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