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第37話 ショッピング

「ほら、聖女様、行くよ」

 サンドイッチ屋さんに行きたい聖女様は、ヘレン先輩に引きずられるように移動させられた。

「わかったわよ、で、どこに行くのフローラ」

「あそこね」

 フローラ先輩が指差す先は、混んでいるわけではないが落ち着いた雰囲気で、私の好きそうな服があることがその佇まいから想像できた。


 店内に入ると予想通り、素敵な服でいっぱいだった。寒くなりつつある今、暖色系の色合いのものが多い。

「玲子ちゃん、これなんかどう?」

 聖女様が一つの服をハンガーから選んだ。少し薄い茶色のワンピースで、大きな襟は白い。その襟には木の実をモチーフにした刺繍が施されている。人目で私は気に入った。

「あの、とってもいいんですけど、高いんじゃないですか」

 私が見ていた服に比べ、明らかに値段が高い。刺繍だったりプリーツだったり、手が込んでいるので高いのだろう。

「ん、気にしなくていいよ。どうせ国家予算から出るし」

「それならば一層、あまりに高いんじゃまずくないですか」

「わかった、じゃ、私のポケットマネーから出す。どうせ全然使ってないし」

 それを聞いていたヘレン先輩が横から口を挟んだ。

「玲子ちゃん、アンがお金使ってないのは事実よ。いっつもおんなじ服でしょ」

「何よ、私がファッションに興味ないみたいじゃない。あ、ないか」

 先輩が聖女様を「アン」と呼んだのはお忍びだからだ。ヘレン先輩が言葉をつなぐ。

「それに使う暇もないでしょ、だから遠慮なく、買ってもらいなよ。だけどほかもちゃんと見たらいいよ」

「そうですね」


「これなんかどうじゃ」

 ネリス先輩が見せてくれたのは、先程のワンピースと同じデザインだが、色は薄い青、襟の刺繍は雪の結晶の柄だ。素敵だ。見入っているとフローラ先輩が、

「いいんだけど、季節先取りすぎじゃない?」

「そ、そうじゃな」

とネリス先輩は残念そうにその服をもどした。


 フローラ先輩は濃い緑色のパンツを持ってきた。

「あっちのブラウスと合わせると素敵じゃない?」

「そうですね、馬車での移動は、パンツのほうが楽そうですね」

 ここで店員さんが寄ってきて、

「試着なさいますか?」

と聞いてきた。

 フローラ先輩が、

「ええ、お願いします。ついでにサイズも測っちゃってもらえますか」

「はい」


 試着室で着替える。店員さんはテキパキと着替えを手伝ってくれながらサイズも測る。着終わるととてもいい着心地だ。

 試着室を出ると先輩たちがニコニコしている。似合っているのだろう。

 促されるまま、先輩たちの前でくるっと一廻りする。

 ヘレン先輩は店員さんに、

「これに合う上着、選んでもらえませんかね。けっこう寒くなると思うんです」

と頼んだ。ちょっとして店員さんは薄いベージュの上着を持ってきた。

「こちらは大きいですが、重ね着もできますから真冬でも使えますよ」

 その服は前を閉じると首のまわりは小さく、寒気が入りにくいようになっている。

「さらにこちらなどいかがでしょう?」

 勧めてきたのは濃いベージュのセーターとグリーン地に細い黄色のラインが入ったマフラーだった。暖かそうである。

「よし、これ買おう。玲子ちゃん、いいよね」

 ヘレン先輩が決断してしまった。

「は、はい。ありがとうございます」

「じゃ、アン、精算よろしく」


 私はちょっと残念だった。最初に聖女様に勧められたワンピースが結構気に入っていたのである。もちろん今着たのもとても気に入っていて、旅路のことを考えればこの服が一番であることは疑いがない。


「店員さん、これとこれもお願い」

 聖女様が最初に来たワンピース、さらにその色違いの青いワンピースも持ってきた。

「あの、私、こんなに買っていただくわけには」

と言うとなぜかネリス先輩が、

「いいんじゃいいんじゃ」

と答えた。


 結構な荷物になり、外に出る段になって聖女様が恥ずかしそうに言い出した。

「あのさ、玲子ちゃんのワンピースさ、私も欲しいな」

 ヘレン先輩の機嫌がわるくなった。

「だめ、来週の離宮は、何のために行くのかわかってんでしょ」

「わかってるって、だから離宮には持っていかない。プライベートで着たいだけ」

「あんたわかってんの? 女子の服がかぶるってことが」

「はい、ごめんなさい……」


 私は感動していた。聖女様は自分が着たいくらい気に入った服を私にすすめてくれたのだ。でもどうしたらいいか困っていると、フローラ先輩が助けてくれた。

「わかった、全員お揃いで買おう。ただし、離宮では玲子ちゃんだけね!」

 するとネリス先輩が、

「ちょっと待て、ワシもあの服は良いと思うが、我らがおそろいで着ていると、まほちゃんたちが気の毒ではないか?」

と言う。聖女様が店員さんに子どもサイズがないか尋ねた。


 まほちゃんたちのもおそろいでなんとか揃い、大荷物を馬車に積み込んだ。馬車には一足先に王宮へ帰ってもらって、荷物を運んでもらうことになった。

「腹が減ったの」

 そのようにネリス先輩が言うので聖女様は、

「うん、サンドイッチ食べよう」

と先頭を切って歩き出した。


 街の中の数人の人がその動きに合わせて移動し始めたのに気づいた。私の買い物に聖女様の護衛の人たちまで巻き込んでしまって、申し訳なく思った。

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