表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/111

第35話 晩秋の離宮から

 治癒魔法はヤニックさんを思い浮かべながら傷とか病気とかが治るイメージをもつことでできるようになった。ただ連続して何回もできるわけではなく、すぐに疲れ果ててしまう。

「それはね、魔力の量のコントロールの問題だと思うわ。傷なら傷の程度に応じて量を加減しないと」

 夕食の席でフローラ先輩はそう解説してくれた。じゃあ量のコントロールはというと、それはかなり直感的なものらしい。訓練をつむことで適切な魔力放出ができるようになるらしいが、何年もかかるようだ。

「それね、私も苦手。ついやりすぎちゃうんだよね」

と、聖女様も言う。

「玲子ちゃんは、他の魔法はどうなの?」

 ヘレン先輩の質問に私は、

「攻撃魔法はまだ試してません。生活系の魔法は、全然うまくいきません」

と答えた。

「うむ、魔力制御がうまくいかん者が攻撃魔法を使うのは危険じゃな」

 ネリス先輩が横目で聖女様を見ながら言った。

「なによ、なんか私に文句あるの」

 聖女様の反論にネリス先輩は、

「いや、ない。聖女様の攻撃魔法には、何回も助けられとるからの」

と答えた。聖女様はドヤ顔で、

「そうでしょ」

と言ったが続けて、

「ただ、魔力制御は私の課題だわ。玲子ちゃんの練習に、私も出たほうがいいかも」

とも言った。悪い話ではないけれど、お忙しい聖女様にその時間があるか疑問に思った。


 秋がどんどん深まっていく。ヤニックさんからは五日おきくらいに手紙が来る。近況報告という感じで離宮の様子を知らせてくる。




レイコ様 お元気でしょうか。

 離宮の周りの森では、落葉する木々はもうすべて葉を散らしてしまいました。朝とか夕方とか風がとても冷たく、手袋をわすれると手の動きが悪くなり仕事にさしつかえそうなくらいです。

 最近の離宮での話題は、いつ初雪が降るか、ということです。聖女様の天文観測機材は初雪の前には室内に移さなければならないのですが、観測されている騎士の方々はギリギリまで観測したいとのことで、何日には片付ける、ということが決められないのです。

 それ以外の仕事も、冬支度が多くなってきました。外で使う椅子などを室内に移動し、春までに修繕しておかなければなりません。しっかりと乾燥させ、傷んだところを直したうえで塗装するので手間と時間がかなりかかるのです。そのため工房内では収まりきらず、客室の一部の家具を片付けて作業場として使っているのです。

 ですがレイコさんたちがお使いになっていた部屋は、あのままにしてあります。聖女様のお仕事次第かと思いますが、いつでもお越しいただけるようにしてあります。秋の離宮も冬の離宮も美しいので、ぜひ見ていただきたいと考えています。

 冬に向けての仕事が忙しく、レイコさんの絵の仕上げがなかなか進まず申し訳ありません。昨日なんとか完成したものがありますので、一緒の便でお送りします。

 レイコさんの絵の仕上げはレイコさんとの会話を思い出して楽しいです。思い出しているとときどき私の手が止まっているようで、そのたび職人頭のフランツさんに叱られています。

 私としては、レイコさんの新しい絵を描きたい気持ちでいっぱいです。再びお会いできる日をまっています。

 季節の変わり目ですから、どうかお体にお気をつけください。




 ヤニックさんの手紙にあった通り、私宛の包が一つあった。開けてみると小さいけれどきちんと額装された私の絵があった。湖畔に置かれたテーブルに座っている私の横顔の絵である。絵を見ているとヴァイスヴァルトの湖のさわやかな風を思い出す。私がモデルをしたのは工房の中だったから、ヤニックさんは背景だけ湖にしたのだろう。


 私は早速返事を書く。





ヤニック様 お手紙と絵、ありがとうございます。

 私はここのところ、魔法の練習に取り組んでいます。治癒魔法はある程度できるようになったのですが、生活魔法が全くできないのです。聖女様も生活魔法が苦手と仰っていて、時間があるときは一緒に練習しています。

 王都も秋がすすんでいますが、まだまだ雪を予期させるほどではありません。冬の訪れが強く感じられるヴァイスヴァルトのほうが、美しい秋を感じられるのでしょう。私には美術の素養がありませんが、ヤニックさんならヴァイスヴァルトの美しさの本質がわかるのでしょう。ちょっとうらやましいと言うより悔しく感じてしまいます。

 もうひとつ悔しいのは、私にはヤニックさんのお顔の絵が無いことです。もちろんはっきりと覚えていますが、やはり絵でもいいのでヤニックさんのお顔をみたいのです。

 湖畔の絵、とても気に入りました。まだ春どころか冬にもなっていませんが、また湖にいきたくなってきました。もしまた離宮におじゃますることができたら、ヤニックさんと一緒に湖畔を歩いてみたいと考えています。

 私は今、聖女様のおしごとのお手伝いをしていて、女学校での授業とか天文・気象の観測値の整理など、とても忙しい毎日を過ごしています。大切なおしごとでやりがいもあるのですが、ヤニックさんのことを考える時間もないくらいなのが、いいことなのか悪いことなのかよくわかりません。まあ聖女様のお手伝いをしているので、聖女様とご一緒して離宮へ伺うこともあると思います。いつになるかわかりませんが、その日を楽しみにしています。

 またお会いできる日まで、ご健康にお気をつけてお過ごしください。



「あれ、なんか紙が入ってる」

 ヤニックさんが送ってくれた絵を見ていたあかねちゃんが気付いた。

「れいこちゃん、これ」

と渡してくれた紙には、

「レイコ様、ヤニックがときどきボーっとしています。離宮に来て、ヤニックにハッパをかけてやってください。 フランツ」

と書いてあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ