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第33話 聖女教信者

 売店でお守りを買おうと列に並んでいた私とレギーナさんは店の奥のドアからさらに奥へと案内された。事務室みたいなところにいた初老の女性は、

「聖女代理のジャンヌです。はじめまして」

と挨拶してくれた。聖女代理と言えばこの国でとんでもなくえらい人の一人である。焦った私はとにかく挨拶だけはちゃんとしないとと思い、

「サッポロのレイコです。ご挨拶が遅れ、申し訳ありません」

と頭を下げた。

「いえいえ、慣れない環境でたいへんでしょう。ご事情は聖女様から伺っております。落ち着かれたら、こちらからご挨拶に伺おうと思っておりました。立ち話でもなんですから、どうぞこちらへ」

 応接セットの方へ案内された。


 着席するとジャンヌ様がレギーナさんに話しかけた。

「レギーナさんも、いらしたならいらしたとお教えくださればいいのに」

「申し訳ありません、急なことでしたし、レイコさんもこの国の普通の状態をお知りになりたいかと思いましたので」

「じゃあこちらにきていただいて、いけなかったかしら」

 私は慌てて、

「いえ、とんでもないです。お会いできて嬉しいです」

と言ったらジャンヌ様は、

「聖女様に振り回されて、たいへんでしょ」

といたずらっぽく笑われた。


 しばらく世間話をしたあと、ジャンヌ様はおっしゃられた。

「レイコ様、あなたがうらやましいわ」

「どういうことでしょう」

「聖女様って、面白い方でしょ」

「はい、ぶっちゃけ、そうですね」

「だのに私、代理だからあの方とご一緒できる機会がすくないんですよ」

「なるほど」

「例えばレイコさん、今度また離宮へ聖女様と一緒に行かれるのでしょう?」

「そうなんですか、知りませんでした」

 レギーナさんの方を見ると、顔をしかめている。

「あら、連絡もれね。聖女様はときどき抜けてるから」

「いつもならフィリップ殿あたりがなんとかしているのですが」

 レギーナ様が申し訳無さそうに言う。私としては、

「実験忙しそうなのに、もしかして私達が負担をかけているのでしょうか」

と口に出してしまった。するとジャンヌ様は表情を改めて、

「そんなことを言ってはいけませんよ、レイコさん。聖女様があなた達のお話をされるとき、本当に嬉しそうに仰るのよ」

「そうですか、すみません」


 そのあとジャンヌ様は、聖女様たちがどんなにすばらしい人達か教えてくれた。そして、

「私はね、アン様の代理になれて、本当に良かったと思うのです」

と話を続けた。

「あの方たちはアン様を中心として、いろいろとこの国につくしてくれています。まず、戦争です。戦争を予測し勝利しただけでなく、あの方たちは1年以上かけてすべてのお墓参りをしたのです」

 その話は詳しくは知らなかった。お墓参りのことは聞いていたが、すべてやったとは知らなかった。

「そうするとね、どうしても王都がお留守になっちゃうでしょう。そのあいだの聖女様のお仕事をお手伝いできる、これほど名誉なお仕事はありません」

「そうですね」

「それから女子大を作り、この国の学問を発展させるだけでなく、女性の生き方をも改革しようとされているのです。私は先代の聖女様から代理の仕事をするよう任されましたが、決められたことをこなすだけで精一杯でした。でもアン様はちがう。あの方は歴代の聖女様の枠では収まらない大聖女様になること、まちがいありません」

「その近くにいれる私は、幸せなんですね」

 感想をもらすとジャンヌ様はそれを肯定された。

「そうです。私も、幸せなんです」

 横からレギーナさんが口を挟んだ。

「レイコさん、ジャンヌ様はおそらく、この国でもっとも聖女様を崇拝していますよ」

「何を仰るの、レギーナ様にはかないませんわ」

「そんなことないですよ」

「あ、そうだ、神官長様のほうが私達より上かもしれません」

「ああなるほど、そうですね」

 私としては質問せざるを得なかった。

「あの、すみません、神官長様と聖女代理のジャンヌ様がそんなことでこの国の宗教、大丈夫なんですか?」


 この質問はしてはいけなかったらしい。ジャンヌ様は少し怖い顔で、

「まちがいなく、大丈夫です。というより、ノルトラントはアン様ステファン殿下のもとで更に発展するのです」

 やばいと思うので乗っかっておいた。

「そうですね、私もそのお手伝いをさせていただきたいです」

 ジャンヌ様のお顔が柔らかくなった。それでも私は一応言っておく。

「僭越ですが、それでも聖女様は、偶像崇拝みたいなのはお好みにならないのではないでしょうか」

 私は売店でじゃんじゃん売られていた肖像画のことを言っているのである。するとジャンヌ様は笑い出した。

「そうなんです。あの方はそういうの嫌いなんです。ですけど肖像画の利益はみんな、女子大に行くことになっているんです。女子大のためということにしたら、聖女様はもっと売りたいとか売り場を拡大したいとか、地方でも販売したいとか仰るんですよ」

 私は悪ノリしてもう一言言ってみた。

「でしたら肖像画の一部に、聖女様の直筆サイン入りみたいなの作ったらどうですかね」

 そしたらジャンヌ様は突然立ち上がり、机に行ってなにか書類を見ていた。

「明後日こちらに聖女様がいらっしゃいます。そのとき時間の限り、サインしてもらいましょう」

 ジャンヌ様はもみ手をしながらそう仰った。


 あとで聞いたところだと、肖像画の利益を女子大行きにしたのはフィリプ先輩らしい。

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