第31話 天気予報
私は毎日王宮を出て、女子大だったり聖女庁だったりで先輩たちの仕事を手伝っていた。秋も深まりつつあるので王宮に戻ってくるのはどうしても真っ暗になってからになる。夕食はミハエル殿下ご夫妻に夜会とかがなければご夫妻、ステラ姫、そしてまほちゃん達といっしょに食べる。その席ではヴェローニカ様が先輩たちの活動内容を聞きたがった。
「今日はヘレン先輩を手伝っていました」
「うむ、なにか面白いことでもあったか?」
「いえ、まあいつも通りではありましたね。聖騎士団とか聖女長の方とフィリップさんがお話するとヘレンさんがイライラするという構図が、ずっと続いていました」
「まあ、あの二人は仲がいいからな。ああしてじゃれ合っているのであろう」
「そうでしょうね、ああ、そういえば明後日、ステラ様とお出かけのご予定でしたね」
「うむ、たまにはステラに広々とした景色を見せてあげたくてな」
「それなんですが、生のデータを見たところ、明後日は天気が悪くなりそうな気がします」
「アンはなんと言っているんだ?」
「わかりません」
その時、女官がやってきて聖女様が来訪したことを告げた。
カツカツと足音を立ててやってきた聖女様に、ヴェローニカ様が声をかけた。
「聖女様、本日は面会の予定はなかったかと思いますが」
横目で見ていると、このバカ丁寧な口調はヴェローニカ様がふざけているのがわかる。
「ヴェローニカ様、明後日ですが、雨が降る可能性が高いです」
「なんだ、その話ですか。それはちょうど今、レイコ殿に聞いたところです」
「え、玲子ちゃん、言っちゃったの?」
「はい、すみません」
聖女様は口を尖らせている。それを見たのだろう、ヴェローニカ様は、
「まあまあアン、レイコ殿は親切で教えてくれたのだよ」
「そうですけど、あ、玲子ちゃん、天気図見たの?」
「はい、今日はヘレン先輩のところに居ましたから」
「そうか、ならわかるか」
「はい」
そこにミハエル殿下が口を挟まれた。
「聖女様、やはりレイコ殿は有能なのですね」
「はい、殿下もご承知のとおり、むこうで彼女は私達と同様の教育を受けていましたから」
「うむ」
ミハエル殿下はそこで何事か考え始めた。
「殿下、どうされましたか?」
聖女様が聞いたが、
「いや、自分なりの考えがまとまってから、聖女様にはお伝えします」
と、この話題は途切れた。
「それはそうと玲子ちゃん、明日は女学校でしょ。楽しみじゃない?」
女学校には毎日午前中に算術の授業に行っているが、明日は午後も女学校である。そのことを聖女様は言っているのである。
私は魔法の勉強をしたかったのだが、明日から女学校の魔法の授業に参加できることになったのだ。ただし通常の魔法授業ではなく、魔法が苦手な生徒のための補習クラスだ。補習なので放課後の設定である。
「玲子ちゃん、午前中は授業でしょ、あいだの時間、どうするの?」
私は午前に女学校で算術の授業を受け持っている。だから魔法の補習授業との間にかなりの時間があるのだ。
「それなんですが聖女様、アレクサンドラ先生がですね、自由にしていいと、おっしゃっているんです。なんなら街に遊びに行ってもいいと」
「ああ、それはいいわね。この国の様子が早くわかるんじゃない」
「そうですが、流石に一人で街に出るのは怖いです」
「そうだよね」
聖女様はしばらく考え込んでいた。
「玲子ちゃん、ま、なんとかなるよ。だれかに頼んでみるわ」
「いや、そんなどなたかにご迷惑をかけるわけには」
「大丈夫大丈夫。仕事で街に遊びに行けるんなら、喜んでいく人が必ずいるよ」
ヴェローニカ様も、
「うん、アンの言う通りだよ。任せたらいい」
とおっしゃった。
翌日午前の授業を終え職員室にいると、
「レイコさん、おまたせしました。行きましょう」
と美しく背の高い女性に話しかけられた。最初誰だかわからなかったが、よく見ると親衛隊のレギーナ様だった。
「はは、はじめ私が誰だかわかりませんでしたか?」
「すみません」
「いつもは騎士服だし化粧もしていませんからね」
「は、とにかくいつもに増してお美しいです」
「いずれにせよ、スカートなんて久しぶりに履きましたよ」
廊下を歩くとすれ違う生徒たちの反応がいつもと違う。みな目を丸くしてレギーナ様を見つめている。
「なんか照れますね。聖女様の偉大さがまた一つ、わかりました」
とはレギーナ様の言。
「どういうことですか?」
と聞いてみると、
「私はよく聖女様の警護で一緒に歩いていますが、聖女様はいつもじっと見つめられたり声をかけられたりしていますよね。それをにこやかに受け答えながら普通に歩かれるんです、聖女様は」
「そうでしょうね」
私は校門を出たところで気づいた。まだ来てもらったお礼を言っていない。
「レギーナ様、お忙しいのに来ていただいてありがとうございます」
「ははは、お礼をいいたいのはこちらです。おかげで仕事をサボって街に行けました」
「はは」
「それに、様づけはやめてください。気楽に呼び捨てでもいいですよ。年も近そうだし」
「はは、無理です……」
「ははははは」




