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第29話 私の肖像画

 聖女様の提案は、週一で王宮でゼミをしようということだった。詳しく聞けば、当面私達はステラ姫の遊び相手として王宮に縛られる。王宮での生活になれなければならないからだ。

「レイコは、ヘレンと同じ仕事をしていたのでしたな」

 ミハエル殿下がおしゃった。聖女様が答える。

「はい。ヘレンと同じ研究室の後輩です。基本的には私達と同じ教育を受けています。現在私達の研究は手がいくらあっても足りない状態ですから、素地のある玲子ちゃんを戦力として加えたいのです」

「レイコはどう思うのだ?」

「私としても、ステラ姫殿下のお世話はもちろん大切ですが、できれば聖女様のお手伝いもしたいです」

 するとヴェローニカ様が横から口を出した。

「アン、実のところ物理をやりたいのとステラに会うのを増やしたいのと両立できるアイデアができたと思いついただけだろ」

 聖女様はバレたか、と言う顔をしながら、

「いけないですか?」

と開き直った。

「ま、いいけどな」

とヴェローニカ様は笑った。


 王宮での生活が始まり数日が経った。寂しかった私達の部屋の壁に絵が掛かった。絵は三枚、すべて離宮のヤニックさんの手によるものだ。一枚は聖女様とステファン殿下が星を見ている絵、大変人気のある題材で、ヤニックさんによれば量産していると言っていた。もう一枚は私と子どもたちの絵、背景は離宮の近くの湖である。最後の一枚は私の肖像画で、とても嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。みほちゃんなどその絵の前に立って長時間眺めていた。

「この絵、私大好き」

 みほちゃんが言う。

「この絵ね、なんかわかんないんだけど、優しいっていうか、柔らかいっていうか、なんか他の絵と違うと思うんだよね」

 私はなんて答えればいいかわからない。私もいい絵なんだろうと思うのだけど、モデルになっていた時間を思い出すと、何故か冷静で居られない。


 簡単に言えば、もう一度ヤニックさんに絵を描いて欲しいと思うのだ。いや、絵じゃない。ヤニックさんに会いたいと考えている自分が居た。


 絵には簡単な手紙がついていた。




レイコ様、お手紙ありがとうございました。私は今、夏の間に描き溜めたレイコさんの絵を仕上げる作業をしています。いつもの仕事なのですが、なぜか時間がかかってしまいます。もっと良い絵にならないか、そう考えてしまうのです。とりあえず仕上げた一枚を送らせていただきましたが、それにしてももっと描きようがなかったのかと、今でも考えてしまいます。それでもレイコさんが気に入っていただけたら嬉しく思います。

 王宮での生活は堅苦しく、なにかと不自由かと思います。それでも王家の方々、とりわけ聖女様に必要なことなのだと思います。その王宮でご活躍されると確信しております。


 今私は、もう一度レイコさんの絵を描きたい気持ちでいっぱいです。その機会が早く訪れることを願っております。どうかお元気で。




 私は手紙を何度も何度も読み返した。あちらの世界ではいろいろな連絡はすべてスマホ、それで告白を受けたこともある。高校一年の時、そういう内容のメッセージを先輩に送ったこともある。先輩はもう彼女がいるから、と返ってきて、先輩とはその後会わなかった。

 そういうやり取りも含めて、この手紙は受け取って一番うれしかった。この手紙は、一生手放したくないと思った。


 私はとにかく返事を書いた。


ヤニックさん、素敵な絵をありがとうございます。どの絵も素晴らしく、同室の子どもたちも気に入っています。

 聖女様とステファン殿下の絵は、私達のこれからの生活を導いてくれるような気がします。仕事と家庭の両立をお二人はすでに実現されています。これは私達女性の究極の目標であり、ヤニックさんの絵を見て勇気と力をいただいています。

 湖畔での絵は、楽しかった離宮での生活を思い出させてくれます。子どもたちもまた離宮へ行きたいと言っていますし、その時はまた、私も含めて工房へお邪魔させてもらいたいです。

 私を描いていただいた絵は、申し訳ありません、まだ落ち着いて見ることができません。絵の私の姿を通して、ヤニックさんのお仕事されるお姿がどうしても思い出されてしまうのです。他の人から見れば単なる私の肖像画にすぎないかもしれませんが、私にとっては特別な絵です。一生手放したくないと強く思っています。

 聖女様のお仕事で私も離宮に行く機会がいずれあると思います。そのときは絵を書いていただく時間は無いかもしれませんが、お話だけでもしたいと思っています。

 どうかその時まで、お元気でいてください。




 書き終えた私は、自分の書いた手紙を読み返した。読み返したらだんだん恥ずかしくなってきた。ペンで書いた手紙は修正が効かないから、最初から書き直そうかと紙を丸めようとした。

「れいこちゃん、ダメ」

 まほちゃんが話しかけてきた。まほちゃんはベッドに座りながら、私の様子を見ていたらしい。

「ヤニックさんへのお手紙でしょ」

 ごまかしても仕方ないと思い、

「うん」

と答えた。

「素直な気持ちを伝えたほうがいいんじゃない」

「そうね」

 私はそのまま出すことにした。

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