第26話 初めての乗馬
みほちゃんとあかねちゃんがステラ姫のところに移ることに同意したので、早速引っ越しになった。今日一日で準備して、明日の朝に移動するという手筈になった。とは言うものの、ほとんど着の身着のまま、まだ荷物も少ない。だから支度は夜にすることにして、いつもどおりのスケジュールをこなすことにしようかと思ったが、フローラ先輩が反対した。
「みんなさ、今日はのんびりするとか、騎士団の中見て回ったりするとかしたほうがいいよ。しばらくこっち戻ってこれないんだから」
「それもそうですね」
「聖女様、ヘレン、あんたたちはこの四人に近いんだから、今日のスケジュールでキャンセルできるものはキャンセルしてさ、四人につきあってあげなよ」
聖女様は、
「わかった。騎士団長会議だけは出なきゃいけないけど、あとはみんなキャンセルする」
と言うし、ヘレン先輩は、
「うん、私もなんとかなる」
ということで、ちょっと恐縮してしまう。フローラ先輩は、
「会議の間は、私がいるから」
と言うので私はさらに恐縮してしまう。
「大丈夫、気にしないで」
フローラ先輩はさらっと言って、にっこり笑ってくれた。
「うむ、ワシも時間のあるときは顔を出すからな」
ネリス先輩も言ってくれる。ヘレン先輩はそれに対して言い放った。
「あんた仕事サボりたいだけでしょ」
「う、うむ、そうとも言う」
みんなで大笑いした。
午前中は騎士団の中を見学させてもらうことにした。子どもたちはまず厩舎に行きたがった。聖女様はどうしても朝の事務があるというので、ヘレン先輩が案内してくれることになった。
「ネリス、マルス借りていい?」
ヘレン先輩がネリス先輩に聞いた。
「ああ、ええが後で返すのじゃぞ」
「うん、安心して」
ヘレン先輩が先導し、私とマルス先輩が子どもたちの後ろになって厩舎へ向かう。私はマルス先輩に聞いてみた。
「先輩、ヘレン先輩はフィリップ先輩でなくどうしてマルス先輩を指名したんですかね」
「ああ、それはね、力仕事系はフィリップ先輩より僕のほうがいいんだよね」
「そうですか」
「はは、フィリップ先輩は王宮の神官たちに顔がきくんだよ。僕は兵士あがりだから力仕事とか下働き関係は強いんだよね」
「なるほど」
その会話にヘレン先輩が振り返って割り込んできた。
「あのさ、フィリップのへっぴり腰見てるとイライラしてくんだよね」
「何言ってんすか、心配なだけでしょう」
「うるさい」
子どもたちはニコニコしている。私達の会話が面白いのか馬たちが楽しみなのか、わからない。
厩舎に入ると外からも臭っていたあの臭いが強烈になった。方方で馬たちの物音が聞こえてくる。そこへひょいと一人の女性騎士が顔を出した。
「ヘレン、来たのね」
「はい、ベルタさん、みんな、聖騎士団で厩舎の責任者をしているベルタさんよ」
ベルタさんは中年に差し掛かった感じの背の高い女性だ。この世界、金髪が多いがこの人は銀髪だ。
「よろしくお願いしま~す!!」
子どもたちが元気に答え、私も頭を下げる。
頭を上げたら顔の真横に馬の顔があり、声を出しながら飛び退いてしまった。
「はは、レイコさん、その馬はカイザー、あなたに興味あるみたいよ。後で乗ってみる?」
「あは、そうしたいですけど、馬乗ったことなくて」
「その子はおとなしいから大丈夫よ。ハーマン!」
「ハイ」
初老の男性が出てきた。
「ハーマン、あとでレイコさんをカイザーにのせてあげてくれないかしら。あと、子どもたちにもね」
「わかりました、準備しておきます」
一通り厩舎内を案内してもらったところで、外に出た。そこには先程のカイザーを始め4頭の馬が用意されていた。私はハーマンさんに手伝ってもらってカイザーにまたがった。急に高いところに座ったので少し怖かった。
「レイコさん、遠くを見たほうがいいですよ」
ハーマンさんに言われ視線を上げると、世界が広がった。秋の騎士団の美しい景色が急に私の目に飛び込んできた。
「少し歩きますか」
ハーマンさんがカイザーをゆっくりと導いてくれ、その美しい景色が動き出した。
馬場を2・3周したところでハーマンさんがカイザーを止めた。
「どうですか、レイコさん」
「ええ、気持ちいいですね。乗馬を習いたくなりました」
するとヘレン先輩が発言した。
「玲子ちゃん、いずれ習うことになるよ。楽しいよ、ほら」
ヘレン先輩が指差す方を見ると、まほちゃん、みほちゃん、あかねちゃん、皆馬上で笑っている。さらに、
「オーイ!」
と聖女様とステファン殿下が2頭の馬に乗ってやってきた。
それを見たヘレン先輩は言った。
「聖女様ずるい、さては仕事さぼったな」
そのあとしばらく、聖女様たちと乗馬を楽しんだ。そのあと厩舎に戻り、馬の足を洗ったり胴体を拭いたりして手入れしてから昼食になった。




